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「…俺自身としては許可したくないね。信用できるかどうかも怪しい人物が、美夜様のそばに集るなんて冗談じゃない」


「俺達が信用できないっていうのか! こういった事件の場合、なによりも桜屋敷が一番危険なんだぞ」


 観咲みさきに怒鳴られ、恭介は視線を鋭くしながら煙草を指にはさめ軽く腕を組んだ。


「証拠をください」


「なんだとてめ」


「幽霊が、桜屋敷さんに似ているという証拠ですか」


 観咲が恭介につかみかかろうとしたのを遮り、弓月は恭介を見据えた。


「それ以外にあるかな?」


 勘違いした観咲を見ながら皮肉げに笑う。 観咲のこめかみがひきつった。


「…弁護士さん、あんたすげー性格悪いな」


 恭介は無言で営業用スマイルを観咲に返した。


「私の証言では信用できませんか? 私はアレを見たんですが」


 できることならば、今すぐにでも美夜を護衛したかった。

 けして移り変ることない春の園。

 母親が死んだ今、こんな優しい世界で暮らす者が心を弱くすることを、どうして責めることができようか。

 自分の抱く感情が同情であることはわかっていた。

 それでも今の弓月には、抱くことをやめることなどできなかった。


「君達の側の証言は無効だ。写真かなにかではっきりと証明して欲しいんだが」


「アレはいつ、どこに出没するかわからないんだぜ? 無理だよ無理」


 ひらひらと手を振り歩き出す観咲に恭介は極上の笑顔を向けた。


「無理にとは言わないよ。ただね…私ならただの証言だけで許可しようとは思わないな。父はどうだかわからないけれど? …せっかく父の気性をよく知るこの私が言っているのになぁ」


 嫌味ったらしい恭介の言葉に観咲は恨めしさを込め振り返る。


「あんた、友達いないだろ」


「失礼な。女友達なら大勢いるよ」


 にっこり、と笑い観咲を挑発する。


「彼女をそれに加えないでくださいね」


 背を向けざまに弓月が放った言葉に、恭介の笑顔がかき消えた。


「おっと、公私混同は遠慮してくれよ。弁護士さん」


 慌てて釘を刺し、観咲は弓月と肩を並べ門に向かった。


「それは御互い様なご意見だね」


 笑い声を潜ませつつ挑発したが、弓月は乗ってこなかった。

 つまらなそうに肩をすくめ、恭介は観咲達とは反対の方向へ歩を進めていった。

 

「そうだぞ弓月。いくら桜屋敷に惚れたからって仕事に私情はさむなよ。確かに『お前の幽霊が巷にはこびってる』なんて言ったら驚くかもしれんが」


「何勘違いしてるんです、観咲」


 心底呆れつつ観咲を見返す。

 けれどなぜか、『惚れた』と聞いた途端、炎をまとった美夜の姿が目に浮かんだ。

 門の脇に駐車してあった白いワーゲンに乗り込む二人。


「オイオイ。さっきの弁護士野郎に言ったセリフなんてもろ『惚れてます』って感じだったぞ」


 それには応えず、弓月は上着の内ポケットからハンカチを取り出し、観咲に手渡した。


「なんだよ。べつに俺は泣いてなんかいないぞ」


「…開いてみてください」


 エンジンをかけつつ言う。


「んぁ?」


 洗いざらしのハンカチに包まれていたのは深い黄色の石のついた小さな指輪だった。


「これ桜屋敷のじゃん。わざわざ探して拾ったのか。やっぱお前」


「裏に刻まれているものを見て下さい」


 いいかげん『惚れてる』説に疲れつつも怒ることはしない。

 そう強く否定したくなかったのかもしれない。

 弓月のやつ本気で惚れてないと思ってんのかぁ? こいつ桜屋敷に初めて会った時から態度に落ち着きがないよなー。

 いや待てよ、アレに会ってたから態度が変だったのか? でもなーそれにしてはちょっとなぁ。あんなの見慣れてるはずだしなー。 ひょい、と指輪を掲げて裏を見る。


「『11/2 misaya・H』ミサヤって美冴夜か おい弓月、戻せっ戻せよ! 俺の妹だっ」

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