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「では、そろそろおいとましましょうか。観咲みさき


 ひときしり談話をすませた後、弓月ゆみづきがそう言った。

 観咲は驚いたように弓月を振り返る。


「え…おい、あれは…?」


「退学についてのお話なら久世くぜ弁護士に頼みました。聞いていなかったんですか?」


 困った人ですね、と呆れたふりをしつつ白衣を取り立ち上がる。そして美夜と恭介に一礼した。


「………」


 なにやら意のこもった視線を弓月に投げつつ観咲も立ち上がる。

 美夜は困ったように恭介を見上げた。


 一体どうなさったのかしら。


 だが恭介は頼られた気分になり、つい立ち上がってしまう。


 問うような視線を恭介に向けられ、弓月はちら、と美夜を見た。


 なるほど。


 恭介は美夜に向かって微笑む。


「申し訳ありません、美夜様。そろそろ時間ですので私も失礼させていただきます。私の携帯電話の番号をお教えしておきますね。何かあればすぐにかけてください」


 名刺の裏に番号を走り書きすると、美夜に手渡した。


「…夜に一度、電話します」


 そう言い残し、恭介は観咲と弓月と共に屋敷を去っていった。




 

「さて、一体どうなさったのですか?」


 恭介は不機嫌にため息をつき弓月に問いかけた。


「そーだよ、弓月、どういうことだよ」


「彼女はとてもデリケートです。あのことを知らせるのは酷です」


 淡々とした弓月を睨み、観咲は肩をいからせた。


「ふざけるな! 仕事なんだぞっ今更そんな甘いことを言ってられるかっ」


 恭介はとりあえずは傍観者を決めこみ煙草を吸う。


「アレの目的さえわかれば、彼女はなにも知らないままでいられる。私はこれからアレの分析に入ります」


「なぜお前がそこまでしなけりゃならない! 桜屋敷自身に問題があるからだろう 桜屋敷からその原因を取り除けばアレは消えるっ」


 観咲は庭の途中で立ち止まる。戻るつもりなのだ。


「そんな簡単な問題じゃないんです 彼女を我々と同じと考えないでください。彼女はあまりに純粋すぎる…弱過ぎる! こんな奇麗な場所で外気に汚されることなく育ってきたんだショックが大き過ぎる」


 弓月の必死な口調に観咲は文字通り頭を抱える。


「一体どうしちまったんだ、弓月。俺にはぜんぜんショックが大き過ぎるとは思えない。なぜそんなにムキになるのかわからない。ショックが大きいと思うのか? なら俺達が護衛すればいいじゃないか。アレが消えるまでそれが仕事だろう?」


「結果が第二の原因ともなり得るんです」


 苦しげに、うめくように呟いた弓月。それを見上げ観咲は問いつめようと口を開きかけた。


「さて、それくらいにしてくれないか? 貴重ないこいの時間を泣く泣く蹴ってきたんださっさと説明して欲しいもんだね。どうやら美夜様に関係のある話のようだし?」


 煙草をくわえたまま、恭介が言った。

 しばらく沈黙した二人だったが、恭介が桜屋敷へ戻ろうとしかけたのを遮るように、弓月が話し出した。


「私達は『おがみ屋』のようなものです。白河学園からの依頼を受けてあるモノを消すために調査中なんです」


「それが美夜様とどうつながるんだ?」


 恭介は煙草を投げようとしたが、ここは桜屋敷の庭であることを思い出し、諦めてまた口にくわえる。


「…学園の依頼とは『我が校の生徒らしい姿をした幽霊を退治してほしい』ということでした。その幽霊とは、み…桜屋敷さんとそっくりなんです」


 弓月は観咲に口をはさませる隙を作らずに説明した。

 ほう、と恭介は感心した声を上げる。


「それはぜひとも会ってみたいな。あのひとの幽霊ならばさぞかし美しいだろう?」


 弓月は口をつぐみ恭介を睨んだ。

 ひらりと手を振り、恭介は弓月に笑いかける。無論、営業用スマイルだ。

「そう怒らないでくれ。別に信じていない訳じゃない」


 観咲ははっとして弓月を見た。ようやくわかった。

 …そうなのか…。

 だから弓月がなぜ怒ったのかにも気づいた


「私もいろいろそちらの世界の噂は聞いているんでね。イカサマだのと中傷する気はないよ。ただにせ者が多い職だから、信じるとは言い切らないでおこう。…それで? 私になんの用があるんだい?」


「保護者として、我々が彼女の周りをウロつくことを許可していただきたい」


 恭介は弓月の言葉を吟味するかのように、ゆっくりと煙を吸い、ため息のように白い煙を吐いた。


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