危機一髪 真相は
体の感覚が薄くなっていく。
防護服を着ているというのに、圧倒的な魔法の威力で意識が飛びそうだ。
時折飛んでくる小さな氷の塊が足や腕を掠め、そこから出てくる血液さえも少しずつ凍らせている。
ああ、痛みも消えてきた。
あまりの寒さに五感さえも氷っているような気がする。
しかし、凍てつくような風が消え、体から寒気が抜けていく。
ついに頭もおかしくなったか、と胸中で自嘲的に笑い、寒さで開くことのできなかった目を開けてみる。
すると、そこには先ほどまでの黒色の吹雪が消えており、金色に輝く炎が自分たち全員を覆っていた。
「金色の炎・・・・」
白井もあまりの光景に唖然としている。
正人たちは目を瞑ってしまっていて見てなかったが、白井はこの炎がどこから放たれたものかをはっきりとみていた。
それは、まだ魔法陣を解除していなかったこの部屋の入口からである。
たかが学生程度がとけるような魔法陣を作ったつもりはなかった。
そうとなると、この魔法陣を解いたのは・・・・・
「私の生徒たちに手を出さないでいただこうか」
杖をつきながら校長の荒木はゆっくりと部屋の中に入ってきた。
白井はやはり教師かと、らしくもない舌打ちを打つ。
荒木は表情こそ老人らしい穏やかな微笑みを浮かべているが、その目は本気だ。
「なんて炎だよ、っ!みんな、大丈夫か」
「傷だらけ・・・・・・・。」
校長の後ろから海斗と弥生が入ってきて正人たちのもとへ寄る。
正人はその姿を見て海斗たちが校長を呼んでくれたのだなと納得した。
出来ればあと少し早めに来てほしかったのだが・・・
「正人、酷いけがだよ、大丈夫」
「おお、ちょっとキツイけどまあ大丈夫だ」
実際には今すぐにでも意識が飛びそうなのだが、そこは女子の前なので我慢する。
光は見た目には怪我は少なく、あまり心配はなさそうだ。
そう言えば他のみんなは、と思い俊介たちのいた方を見てみた。
三人とも苦しそうな表情をしているが、大怪我はしていなさそうで弥生に手伝ってもらいながら壁際まで移動していた。
どうやら一番大怪我を負っているのは自分らしい。
体のあちこちから血が出て凍った跡がある。
「フンっ」
荒木は詠唱もなしで金色の炎を操り白井に攻撃を仕掛けた。
炎は二つに分かれ、蛇のような形をして白井に襲いかかっていく。
白井は二つともは避けられないと判断し、一つ目は避け、二つ目は持っていた鋏を一振りし炎蛇を切り裂いた。
鋏からは黒い気のようなものが出ていて、正人の刀と同じくらいの長さとなっている。
「くっ・・・・」
それでも炎蛇は完全には斬ることができず、白井は後方へ吹き飛ばされる。
白井は追撃がを受けないよう、すぐさま体勢を整え距離を取るが荒木は何もしてこなかった。
すると、白井の後方から大きな音が聞こえた。
驚いて見てみると、初め、正人たちが開けようとしていたドアの部屋が粉々になって崩れていた。
「何だ、あの機械は」
その部屋の中にはやや大きめの機会が置いてあった。
医療用と思われるベッドが二つあり、その二つは無数のコードでつながっている。
遠くから見ているのであまり詳しくはわからないが、何か実験器具のようなものも見える。
そして、一番目についたのが部屋の色だ。
白い壁のところどころに赤いしみがついている。
そう、血だ。
それを見て正人はこの男たちの目的が見えてきた。
「お前まさか・・・誘拐した人たちを使って人体実験してたのか!」
白井は何も言わず口が張り裂けるかというぐらい口の端を吊り上げ狂気の笑みを浮かべた。
こんなの許されることじゃない。
正人の中では怒りがこみあげてくる。
何の実験をしていたか知らない、いや、知りたくもないが、そのために何も関係ない人たちを使うなんて非人道にもほどがある。
「ふむ、これで怪しきことをしていたと吐いたも同然。入ってきなさい」
荒木の合図を聞き入ってきたのは黒い制服を着た魔法警察官だった。
しかしよく見てみると普通の魔法警察官とは違い、人数がとても多い。
その数はおよそ50人ほど。
警官たちは一斉に警棒を抜いて、陣形を固め完全に包囲した。
普通の警官ではありえないほどの練度の高さだ。
今の動きからも、この人たちが普通の警官ではないことがはっきりわかった。
「俺らは魔法軍特殊隊第二中隊だ。はえーとこ投降しろ、さもないと攻撃しちゃうよ」
男たちの正体は軍の人間だった。
しかも特殊隊といえば、軍の活動などで第一線や偵察、隠密行動などのあらゆる方面に精通している軍のエリート集団で軍に入ろうと思っている者なら誰しも憧れるものである。
「軍か、不味いな。撤退させてもらうよ」
「させると思うか?お前ら、そいつを確保しちゃいな」
魔法軍50人+校長が相手では敵うはずもないので白井は逃げる用意をするが、特殊隊の隊長と思われる人物が命令をだし一斉に白井を確保しようとした。
白井は全方位に突風をだし、50人全員を怯ませる。
壁まで吹っ飛ばすくらいの威力出したはずなのになと思いつつも、懐から紙に書かれた一枚の魔法陣を取出し床に投げる。
そして、白井が一言何かを唱えると魔法陣は光だし白井の姿は消えてしまった。
それは移転魔法のための魔法陣だったらしい。
「逃げたのか、やべ、力が・・・・・」
正人は体力に限界がきていたようで意識が薄れてきていた。
緊張が解けたこともあるのか、身体にどっと疲れが押し寄せてくる。
「正人、大丈夫!」
みんなの声はだんだん大きくなっているはずなのに、自分の耳で聞きとっている音量はどんどん小さくなっている。
そして、聞こえなくなり正人は意識がブラックアウトした。