潜入開始 不安が募る
「た、大変です。魔法学校の奴らがこの工場に入ってくるらしいです」
廃工場の中の一室でリーダー各の男に報告した。
あわてているその男とは違い、リーダーの男は全く動揺していない。
他の手下たちもわあわあと騒ぎ始めた。
「どうするつもりだい、あれを見られたら不味いんじゃないのか」
長身の男もリーダーの男に言う。
「わかってるよそんなこと・・・・」
そう吐き捨て、目を閉じ何かを考え始めた。
手下たちは何も言うことができない。
以前、こういう時のこの男に話しかけた者が半殺しになってしまったからだ。
長身の男はリーダーの男と同じく全く動揺していないが、その顔はどこか楽しそうだ。
「よし・・・・お前ら、今から俺の言うとおりに動け」
そう言いリーダーの男自ら動き出した。
正人たちは今回の任務地である廃工場に到着した。
この工場は想像していたよりも大きく、中をすべて見回るのはなかなか時間がかかりそうだ。
しかし、大きい割には全体的に脆そうである。
大きなダメージを与えればすぐに一部が壊れてしまうぐらいに。
「じゃあ、私たちから入るぞ」
正人たち1班と海斗と弥生がいる2班の組は二階の奥を捜索することになっているので、一番に工場内に入ることになった。
工場内に入ると外面以上に内部はボロボロだった。
壁は一部が崩れていて中の鉄の棒が見えたり、床にはたくさんのコンクリート片が落ちている。
「こちら1班、中はかなり崩れているので気を付けるように他の班にも注意を促してください」
星姫が無線を使い外の先生たちに連絡を送っていた。
有事の際にはこれで先生たちを呼ぶことになっている。
これはあくまで俺たち生徒の仕事なので、先生たちは基本手出しはしないようだ。
「それにしても、中は崩れまくってるな」
「歩きにくい・・・・・・・」
2班の海斗と弥生が愚痴をこぼす。
「あんまり暴れて物壊すなよ。崩れてくるから」
「海斗は力強そうだから、すぐ崩れてきそうだね」
「あの・・・生き埋めは嫌なんで壊さないでくださいね」
「ていうか、足つけて歩かないでよ(笑)」
「お前ら俺をなんだと思ってる!あと、最後のは絶対無理だし、ちょっとバカにしただろ」
正人、俊介、星姫、光の4人に対し、切れのいいつっこみを放つ海斗。
もしかしたら、彼はいいつっこみ役(または、いじられ役)かもしれない。
そんなギャーギャー騒ぐ5人をよそに、咲だけは冷静に状況を分析していた。
(たしか、この工場は去年の11月に閉鎖になったと資料に書いてあったが、いくらなんでも崩れすぎだな・・・・・)
床には多くの瓦礫が転がっており、壁も崩れているものもある。
たかが5か月でここまで崩れることはないだろう。
工場ならば、なかなか耐久性があるはずであるのに。
「(まあ考えてもどうすることも出来ないか・・・・)あまり騒ぐな。先に進むぞ」
考えたところで何もできないので、とりあえず気を引き締めるだけにした。
咲の不安とは裏腹に、特に何も起きずに最後の部屋まで来た。
途中、数回海斗が壁を壊してしまったが割愛しよう。
「ここが最後か」
正人がつぶやく。
この部屋は工場内で一番大きな部屋らしく、体育館ほどの大きさがある。
壁はしっかりしていて、この建物内では一番頑丈そうだ。
「咲、ここは・・・」
「ああ、おかしいな」
その中で、正人と咲だけが異変に気付いた。
そう、ここだけ他のところと違いほとんど傷がない。
壁がしっかりしすぎているのだ。
他のところは、壁が崩れているところがほとんどだったが、ここだけは崩れていない。
---何かある---
正人と咲はそう感じていた。
「よし、入るぞ。2班は外で見張っておいてくれ」
「はあ、俺たちは中に入らねえのかよ」
「ここにはたぶん何かありそうだからな。海斗たちは外頼むってことだ」
咲の言葉に海斗は不満そうな声を上げるが、それを正人がなだめた。
二人の言葉に何かを感じ取ったのか、他ののメンバーも真剣な表情になった。
「じゃあ入るぞ。弥生、外は任せた」
「了解」
最後に弥生に言い、咲は先頭に立ち中に入っていった。
その後を追い、正人、光、星姫、俊介の順で中に入っていく。
俊介が部屋の中に入り、歩き始めたとき・・・
勝手にドアが閉まり、バチッという音とともにドア周辺に魔法陣が現れた。