彼と歩いていると…
「今日も暑いね」
私はそう言うと、手で顔をあおく。
隣には彼が歩いており、
「そうだな」
と言ってくる。
それから空を見上げたので、一緒に同じ方向を見る。
太陽は皆を明るく照らそうと張り切っているのか、陽が強く伸びていた。
彼が額に手を当て、光を遮ると、何故か私の腕をひいてくる。
「どうしたの?」
急なことだったので驚いていると、彼に動かされ、道路側を歩くことになる。
それから自分は家の並ぶ側に立つ。
「いいぞ、歩いて」
「え? よく分からないんだけど」
私が戸惑ったように言うと、カンと高い音が響いた。
何の音だろうと私と彼が視線を向けると、先に彼が気づいたようだった。
私はちらりと彼を見、一緒の方向を見ると、ようやく気づく。
「大工さん達?」
「そうみたいだ」
彼はそう答えると、私を守ろうと身構えたようだった。
大工さん達は組まれた足場に乗っており、屋根に登っている人もいた。
私は平気なんだけどなと思いつつ、守ってくれることを嬉しく思い、抱きつきたいくらいだった。
しかし彼は視線をそらさず、1点を見つめる。
どうやら足場にいた1人と目が合ったらしい。
30代くらいだろうか。
熊のように獰猛な顔つきで、彼のライオン顔に負けていなかった。
体格も良く、2人が喧嘩したらただでは終わらない、そんな危機感があった。
私は彼に触れようとして、やめる。
1対1で睨み合っており、女がしゃしゃり出る場ではなかった。
ごくりと唾液を飲み込むと、彼が私を守りながら、口を開く。
「何ですか? 俺達に用でも?」
彼の声は低く、いつでも牙を出しそうな勢いだった。
私はどうしていたのか分からず、見守っていると、大工が答えてくる。
「お前、偉いなと思ってな」
元々、知り合いだったかのように、親しげに話しかけられて、拍子抜けする。
どうやら喧嘩は免れたようだと、安心すると、彼がここは任せろとうなずいてくる。
「何が偉いんですか?」
彼の声は大工に比べて硬く、険しい顔つきとなる。
大工がピューと口笛を吹き、彼の目の前に立つ。
身長は彼のほうが高く、ライオンと熊の対決みたいな感じに見え、心配する。
しかし大工は場を明るくしようとしてか、表情を若干、緩めて言ってくる。
「彼女、危ない目にあわせないようにしただろう? だから偉いなと思って」
「それはどうも。ありがとうございます」
彼の感謝の言葉を聞き、私は急に道路側に立たせれたことを思いつく。
守ってくれようとしたんだと嬉しくなり、顔が穏やかになっていく。
大工は彼の頭に手をかざすと、
「お前、デカいな。どうだ、大工にならないか?」
「あの…それはまだ決めていないので」
彼が上手くはぐらかせると、大工が私に近づこうとするので、彼の身体がガードしてくれる。
「大丈夫だって。取らねえよ。…おい、彼女」
「は、はい…!!」
急に声をかけられ、まるで生贄として熊の前に差し出された肉のように、硬く返した。
「こいつ、大事にしてやれよ。あんたを守っているみたいだから」
大工は彼の肩をばしばしと叩くと、彼が「はあ」と答える。
怖いと思いきや、良い人っぽいので、私も困惑してしまうが、ちゃんと大工に答える。
「はい、大事にします!!」
私も守られてばかりではいられないと、胸を張る。
「それでいい、それでいい。な、彼氏?」
また肩を叩かれ、彼はうなずくにとどめる。
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
そう言うと、大工はするすると足場を登り、仲間と合流する。
私は戸惑いながら、視線を向けるが、もう違う話をしているようで、肩すかしを食らう。
それから彼を見つめると、
「私を守ってくれたの?」
聞いてみると、背中が叩かれる。
「何か落ちてきたら危ないだろう? だからその、道路側にしたんだよ」
「そうなんだ。ありがとう」
私は身体から力を抜くと、彼と手を繋ぐ。
彼も待っていたのか、柔らかく包んでくれる。
「早く行こう。邪魔になるといけないから」
「うん」
私は素直に答え、歩き出す。
一度、彼が振り返ったので、一緒に見てみると、大工が手を振っていた。
最後までよく分からない人だったなと思いつつ、仲良く歩いて行くのだった。




