幸せ売りの少女
自己犠牲の果てに待ち受ける結末とは。
12月、コペンハーゲンの冬空の下。
淡く白い町並みの夜、マッチ箱を詰めた手提げ籠を片手に働く貧相な齢十四である少女の姿がそこにあった。
「どなたか、マッチは。マッチは要りませんか」
金銭が無く飲まず食わずで視界がぼやけながらも、貧しさのあまり困窮する天涯孤独の少女は毎日マッチ売りに勤しんでいましたが、今日も変わらず道行く誰にも相手にされず、明日の生活を思うたび憂うばかりでした。
「こんな寒い時期に彼女は何をしているのだろう」、と。
寒さのあまり、籠のマッチを一つ抜き出して暖を取っていた少女を見かねたのは、群れから逸れて王子像の遣いをしているツバメでした。
全身が純金で覆われ、瞳には青いサファイア、剣の柄には赤いルビーが彩られた豪華絢爛な王子像にその緑頭巾のみすぼらしい格好をした少女の様子について報告すると、「僕の一部を売り物にすれば貧困から救われるだろう」という王子の提案を聞き入れたツバメは嘴で金箔を少しずつ剥がしていくと、それを少女に分け与えていきました。
「変わったツバメさん。……でも、これさえあればきっと――」
最初は不思議に思った少女でしたが、金箔をマッチ箱に添える形で手売りを始めるとお陰でようやく通行人に相手にされるようになり、稼ぎが得られるようになりました。
「う、売れた……!あ、ありがとうございます!」
しかし、それを日夜続けたためにやがて王子像の全身を覆っていた金箔は尽きてしまいました。
「あれがあればお金になる。でも、あのツバメはきっと私が貧しかったから持ってきてくれたのかな……」
(私がお金に困らなくなったと知れば、ツバメはもう金箔を持ってきてはくれないかもしれない)
惜しい気持ちになった少女の心に一筋の魔が差してしまいました。
それからというもの、毎日訪れていたツバメに対してパンの欠片を頬張る少女は「売れそうなものはありませんか」と解決していた筈の貧困を偽って品物を要求してくるようになりました。
しかし、純粋な王子像はこれを拒まず今度は体や剣に埋め込まれていた宝石を一粒ずつツバメに届けさせるようになりました。
同時期、王子像の装飾が段々と減少していることに気が付いた住民は巡回中だった警察に相談すると、「分かりました、確認してみます」とそのまま捜査が開始されました。
王子像周辺で聞き込み調査をしたところ、町中でマッチを手売りしていたみすぼらしい少女が最近になって金箔や宝石を売り始めていたとの情報を得ました。
「品物の出所が怪しい。まさかこの像から持ち出したのではあるまいか」
警察官は事情聴取を終えたところで、捜査線に浮上した少女の目撃情報が多数得られた町の隅へと向かいました。
そしてクリスマス・イブの夜。
更なる売り上げを求める欲に駆られた少女の元へツバメが王子像の瞳に使われていたサファイアを持っていくと、その少女は街角で金箔を見せ付ける警察官に詰められていたところを目撃しました。
「それはツバメが私に運んでくれた大事な売り物なんです!」
「群れで南まで飛ぶツバメが今の時期にコペンハーゲンを飛んでいるワケがないだろう!最近王子像に使われている装飾が盗まれている事件が発覚したのだが、さてはお前が盗んだんじゃないだろうな!」
「違います!私はそんなことは断じてしていません!」
「目撃者の情報もあるんだからな。……まったく、ツバメのせいにするだなんてとんだおとぎ話だな。――言い訳無用だ、連れていくぞ!」
「やめて、離して!」
ありのままを話した少女でしたが荒唐無稽だと切り捨てられ、尋問の末に投獄されてしまいました。
「私がツバメを騙したから、きっと罰が当たったんだわ……」
街灯の光も届かない獄中にて自責の念に囚われた少女はやがて、ひっそりと凍死してしまいました。
「………………………………」
厳しい冬の寒さに耐えきれず、ひっそりと王子像の前で息を引き取ったツバメ。
輝きを失った雪積もる王子像でしたが、像であるために涙を流せないまま悲しさのあまり最後に残った鉛の心臓が二つに割れてしまいました。
醜くボロボロになってしまった物言わぬ像はその後、業者の手によって運ばれた先の溶鉱炉で溶かされましたが、不思議なことに割れた心臓のみが溶けずに残り、あのツバメの死骸とともにゴミ捨て場へ廃棄されました。
深々と白く降りしきる銀世界の中、コペンハーゲンの夜はクリスマスのイルミネーションに照らされていました。
了
地獄への道は善意で舗装されていた。
どうも、季節感ゼロの作者ことユッキング加賀です。
悲惨な末路を辿る童話同士で掛け合わせてみたらどうなるかと考えながら執筆していたらとんでもないメリーバッドエンドを迎えさせてしまいました。
ですが、たまにはこういった悪夢のような終わりと何気もなく幸せな家族が過ごす時間とのコントラストでしか味わえない地獄という蜜もまた良いと思ってしまいました。
それでは、また別の物語でお会いしましょう。
此処まで読んで頂き、誠にありがとうございました。




