彼は男爵家の後継者に成りたいだけだった 伯爵? 公爵? 無理無理無理!
正月特番 2026 アンジェリンの就職事情
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
今年の正月特番は短編で納まりました。2024の正月特番「公爵令嬢と王太子殿下と聖女さま見守る私は侍女でございます」の続編になります。
来週からマーク君の学園生活に戻ります。お楽しみに。
わたくしワージー子爵家長女、アンジェリン・ワージーと申します。
セリアム公爵家で行儀見習いをしておりましたが、縁あって、公爵令嬢のお世話係を拝命いたしました。
お嬢様は王太子殿下の婚約者でいらっしゃいます。お嬢様のお輿入れの際には、わたくしも王宮へお供することになっております。
なんと光栄なことでしょう。
「アンジェリンには、メイドじゃなくて侍女になってもらわなくてはね。準備が必要だわ」
はい、お嬢様。礼儀作法に教養、ますます精進いたします。
「ワージー子爵は我が家の寄り子ではないんですもの。勝手に陞爵させる訳にはいかないわね」
はい?
ええと、公爵家の行儀見習いの口利きをして下さったのは、ワージー子爵家の寄り親の伯爵様です。直接セリアム公爵家の寄り子にしていただくなど、我が家には過ぎた望みでございます。
それがなぜ陞爵などという話になるのでしょう。
「ああ、説明不足だったわね。あのね、王宮の侍女は伯爵令嬢が勤めるものなの。大半の者は花嫁修業よ」
あ、納得です。
公爵家にお仕えする令嬢は、男爵か子爵の家の者です。王宮ともなれば伯爵家なのですね。格が違います。
公爵家でも、行儀見習いはそのまま花嫁修業です。長くて二年、短ければ半年足らずで、皆様暇乞いをして嫁いでいかれます。
わたくしのように生涯を捧げる覚悟の者は少数派なのです。
「適当な家の養女にすれば簡単に伯爵令嬢にできるけれど、それでは弱いわね。そうだわ、アンジェリン、あなた伯爵になりなさい。未来の王妃の側近ですもの、見下されてはいけないわ。身分は必要よ」
わたくしが伯爵。お嬢様、何をおっしゃっているんですか。
恐ろしいことに、わたくしは女伯爵へ叙爵されることになりました。
ただし、普通の伯爵位ではございません。セリアム公爵家の従属爵位でございます。
直参貴族は国王陛下に叙爵されるもの。対して従属爵位は当主が家族や親族に与えるものです。
そう思っていたのですが、公爵家と侯爵家は違うのだそうです。
公爵家と侯爵家は分家を持ちません。従属爵位は家臣に与えます。そこに血筋は関係なく、完全に実力だけで選ばれるそうです。
当主の胸三寸で簡単に首を挿げ替えられてしまうのだとか。
なので、子爵令嬢のわたくしが女伯爵に叙爵されたところで、全く問題になりませんでした。
私と入れ替わりで爵位を失う人に恨まれるのではないかと心配したのですが。
「従属爵位は国王陛下の許可があればいくらでも作れるわ。予備の爵位の十や二十、公爵なら持ってるものよ」
ご当主本人が複数の爵位を掛け持ちしていて当たり前なのだそうです。あまりに当たり前すぎて、貴族学園でわざわざ講義したりしないとか。
ですよね。必要な人なら知ってて当然、地方の中位貴族は知らなくても何ら不都合はないわけで。
常識から何から、本当に世界が違うと実感するのはこんな時です。
お嬢様に従って王宮へ出入りすることを許されると、分かってくることがあります。王宮の侍女には、非公式ながら明らかな序列がありました。
まず、指導役を務めるベテランの皆様。次に領地持ち伯爵令嬢の皆様。そして領地を持たぬ法衣貴族のご令嬢。
従属爵位の伯爵令嬢は最下位です。貴族の最も尊重すべき血統が当てにならないからです。
親が爵位を返上すれば、たちまち平民になってしまう存在として下に見られています。
口惜しくは有りますが、反論できません。従属爵位をまともな貴族家として扱わないのは正しいのです。あくまで主家の付属物なのですから。
「全く浅はかよね。従属爵位は実力主義よ。代々優秀な後継者を育て上げて世襲している家が大半なの。それに、後ろ盾を考えていないのかしら。貴方を軽んじるのは我がセリアム公爵家を軽んじることなのに」
そう言っていただけるのは嬉しいですが、わたくしに実力が有るかと問われると、正直、自信がありません。
「それにね。あなたは女伯爵よ。従属爵位だろうが何だろうが、自身で爵位を持っているの。伯爵令嬢は親が爵位を持っているだけ。あくまで貴族の家族でしかないのよ。どちらが上か、自明の理でしょうに」
恐れ多いことでございます、お嬢様。
はい? 聖女様のお住まいへ出向ですか。
公爵家と侯爵家から高級使用人を派遣することになったと。他家に後れを取らぬよう、伯爵位の侍従と侍女を選抜すると。
聖女様のお住まいは王都のランドール伯爵邸でしたはず。伯爵位の使用人を用いるのは王家だけの特権と心得ておりますが。
まあ、聖女様は準王族あつかいでございますか。国王陛下の侍従長様が家令として派遣されると。国王陛下の思し召しなのですね。
了解いたしましたが、謹んでご辞退申し上げます。
わたくし、アンジェリン・セルーアマタ女伯爵は、お嬢様の侍女と自負しております。仰ぐ主人はただ一人。この心構えで聖女様にお仕えするのは不敬に当たりましょう。
「ありがとう、アンジェリン。あなたの忠誠は嬉しいわ。でもね、父はセリアム公爵なのよ。正面から突っぱねるのは、どうかと思うの。ああ、あなた王太子殿下にも突っかかってたわね。大した度胸だわ」
お嬢様、大口を開けて爆笑されるのはお止めください。はしたないですよ。
いやー、端折りました。細々書き込むと中編で終わらず長編に成りそうで。
去年と一昨年の正月特番を読んでいただくと嬉しいです。登場人物が共通していますので。
お星さまとブックマーク、よろしくお願いいたします。




