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聖夜は、まだ終わらない

作者:

 聖夜の街は、息を吐くたびに白く溶けていく。

イルミネーションの光が雪に反射して、まるで地面まで星が降りてきたみたいだった。


 私は、瑠偉と手を繋いで、駅前から少し離れた裏通りのカフェに向かっている。

瑠偉は私の隣で少し早足で、コートの襟を立てて頬を赤く染めていた。

時々、私の手をぎゅっと握り直す。そのたびに、胸の奥が熱くなる。


「寒くない?」瑠偉が小声で聞いてきた。


「平気だよ。瑠偉の手、あったかいから」


 そう答えると、瑠偉は恥ずかしそうに目を伏せた。

まつ毛に雪が少し乗っているから、指で払ってあげたい衝動がわいてきた。そんなことしたら危ない人だよ。

私はただ、自分の心をごまかすように、もう少し強く手を握り返しちゃった。



 カフェは古いビルの二階にあって、階段を上がるたびに木の軋む音がした。

扉を開けると、店内はふわりと暖かい。ジャズのレコードが小さく流れていて、窓の外の白さまで柔らかく見える気がする。高校生の私たちにとっては少しだけ背伸びしたようなお店。


 窓際の二人掛けの席に座ると、外の雪がよく見えて綺麗だった。


「今日は……来てくれて、ありがとう」


 瑠偉がメニューを見ながら呟く。


「瑠偉が誘ってくれたんだから、当たり前でしょ」


 私は笑って、ホットチョコレートを注文した。瑠偉は、ミルクティー。

飲み物が運ばれてきて、しばらくは窓の外を見ていた。

雪が少し強くなってきた。人通りもまばらで、街が静かになっていく。

なんだか、イルミネーションと雪が降っていって宝石箱の中を見ているみたい。


「ねえ、綾、クリスマスイブに、私なんかと過ごして……いいの?」


 その声は小さくて、震えていた。

私はゆっくりとびっくりした目で瑠偉の方を向いてしまった。

その瞬間瑠偉は、少しびくっとなって椅子を少しひいたみたいに、木のコスリ音が私の耳に聞こえてきた


「瑠偉なんかって、何?」


私がそう言ったら、瑠偉は目を伏せたまま、唇を噛んでいた。


「だって、私……綾に比べて、なんにも特別なところなくて……」


 私はため息をついて、テーブルの下で瑠偉の膝に手を置いた。

このまま言わせたら、走り去っていく気がして、逃げないよって、言葉より先に伝えたくて捕まえちゃった。


「瑠偉は瑠偉で、私にはそれが全部特別なんだよ」


 瑠偉が顔を上げる。瞳が少し潤んでいた。


「去年の今頃は、一人でコンビニのチキン食べてたんだよ? 今年は瑠偉と一緒にいられる。それだけで、もう十分すぎるくらい幸せ」


 瑠偉は黙って、私の手を握ってきた。指が絡まって、離れなくなった。しばらくして、カフェを出た。雪は本格的に降り始めていて、街灯の光が白い粒を浮かび上がらせている。


「どこか行きたいところ、ある?」


 私が聞くと、瑠偉は少し考えてから、小さく首を振った。


「どこでもいい。綾と一緒にいられたら」


 その言葉に、私は瑠偉を引き寄せて肩を抱いた。

コートの生地越しに体温が伝わってくる。触れたところから、心まであったまっていくみたいだった。

公園の方へ歩いた。ベンチには雪が積もっていて、誰もいない。

私達は、街灯の下に立って、瑠偉を見た。


「瑠偉」


 名前を呼ぶと、瑠偉が顔を上げた。

私はそっと頬に手を当てて、唇を重ねた。冷たい空気の中で、瑠偉の唇だけが熱かった。

最初は軽く触れるだけだったのに、瑠偉が私のコートを掴んできた瞬間、もっと深くキスした。

雪が降り続ける中、どれくらい時間が経ったかわからない。

離れた時、瑠偉の頬が真っ赤で、息が白く混じり合っていた。


「綾……大好き」


 瑠偉が震える声で言った。私も、同じ言葉を返した。

その後、公園の奥にある小さな展望台まで歩いた。

街が一望できて、イルミネーションが宝石みたいに輝いている。

肩を寄せ合って、雪を見下ろす。


「来年も、再来年も……ずっとこうやって、一緒にいたい」


 私が言うと、瑠偉は私の腕に顔を埋めた。


「うん……ずっと」


 雪は止む気配なく降り続いていた。

でも、私たちにはそれが心地よかった。

この夜が、少しでも長く続けばいいと思って。

時計が零時を回る頃、瑠偉を送るために駅に向かった。

改札の前で、もう一度抱きしめる。


「メリークリスマス、瑠偉」


「綾も……メリークリスマス」


 瑠偉は少し泣きそうな顔で笑った。そして、電車が来るまで、私の手を離さなかった。電車が去ってからも、私はしばらく改札の前で立ち尽くしていた。手のひらに残る瑠偉の温もりが、この冬を越えてずっと続いていくような気がした。


聖夜は、まだ終わっていない。

明日は聖夜本番今度は私が誘ってみよう。

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