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美味しい血



 「血って何型が1番美味いとかあるん?俺A型なんだけど。やっぱAB型?希少価値ある方が美味い?」

 

 あんな衝撃的なことがあったが、神谷は清水の元を訪れるのを止めなかった。元々問題児だし、子供なのだ。危険だ、と言われることはやりたがるし、禁止されたことには首を突っ込みたがる性分だ。例え高いところから落ちて怪我をしたって、数ヶ月後には忘れてブランコで一回転を目指すのだ。神谷のそれは厄介で、清水への興味はますます増えた。そして子供心ながらに、吸血鬼とかすげーカッコイイじゃんとすら思っている。

 そんな神谷はあの後固まったあと、まず一旦保健室のベットでぽすんと素直に座った。あれは処理落ちした顔だった。そしてしばらくした後、「え、マジで鏡に映らないじゃん」と言ってのけた。「写り悪いとかは?」「写真だったらいけるんじゃね?」「集合写真とか…あっ休んだ?合成?」などと質問責めを食らった清水は鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。


 「てか、よく俺のとこに来れるな」

 清水は神谷の態度に呆れている。透明なレトルトパウチに蓋が着いたような容器にストローを差して、彼が飲んでいるのは血らしい。ストローを吸い込むとチューと可愛らしい音がする。

 あれから清水は吸血鬼らしい行動を神谷に隠しもしないようになった。お腹空いた、と神谷のいる前でなんてことのないようにパウチを取り出した時はびっくりした。真っ赤な血が、透明なパック越しに清水の口に吸い込まれていく様は見ていてなんだか楽しい。さすがに養護教諭が来た時は隠すが。


「お前と喋ってると先生も何も言わないし」

 神谷にとって授業は退屈だ。今習っている範囲は簡単過ぎるし、無駄にはしゃぐ友達のノリも正直だるい。そう言うとノリ悪いと言われるので言わないが。

 教室にいるよりも、静かな保健室で清水とだらだら喋っている方が楽しかった。清水から聞き出す昨今の吸血鬼事情は思いもよらなくて面白い。茶化されていたとしても清水は鏡に映らないし、変な容器で怪しい飲み物を飲んでいることは変わらない。


 「で、美味しい血とかあるわけ?」

 そして、冒頭の話題に戻る。

 「あー…」

 一瞬思案するような素振りを見せた。


 「よく飲むのは、A型…だけど。1回だけ飲んだO型の、女の血が美味かった…」

 その味を思い出したのか、清水はほう、と息を漏らした。

 神谷は最近気づいたことがある。清水は吸血鬼っぽいことをするとちょっぴり瞳孔が縦に長くなるのだ。


 「女の血が美味しいんだ?」

 「多分、好みもある。食べてるものとか脂肪のつき具合とかにもよるんだと思う」

 「ふーん」


 清水は遠いものを見るような目をした。

 だから、気づかなかった。


 「?」

 不意に血の匂いが清水の鼻を掠めた。それはたった今採ったようなくらいハッキリした匂いだ。今手に持つパウチは処理はしているものの、確実に鮮度は落ちる。不思議に思った清水が首を傾げていると。


 「清水、口開けてみて」

 「?神谷、お前なにして、」

 

 「え゛」

 指を口の中にねじ込んだ。

 清水は目を大きく開け、この突然のことに理解できないようだった。

 

 ぬる、と舌が傷口に触れる感触がした。

 キュ、と瞳孔が縦長くなり、人外じみた相貌が更に際立つ。

「う、く゛」


 ダラダラとヨダレを垂らし、その多少粘性を持った液体が吸血鬼の顎をつたった。少し伸びた爪がカリカリと神谷の腕を引っ掻き、耐えているだろうことは容易に分かった。

 「あ゛、なん、っで」

 瞳には涙が浮かんでいた。


 「や、なんか…してみたくなった」

 悪びれもなく神谷は言う。手は止めない。吸血鬼の舌を指で挟み、引っ張り出した。


 「、ふ、ッす、」

 「赤いんだ」

 舌は唇と同じくらい真っ赤だった。つやつや光っている。神谷にはそれが飴みたいに見えた。舐めたらいちごの味がしそうだった。

 「ん」


 だから、舐めた。


「んんッ」


 清水は一層暴れた。面倒なので抑えた。

 舌を舐めたのだから、当然舌同士ががぞりゅ、と触れる。

 これがたまらなく良かった。気持ちよかった。


 「ッ、ふぅ、ん」

 「んっ、ふ」

 「ふ、ん、ッ?、あっ、ひ、?」

 「…鼻で息してみ」

 「ん、は、はっ」

 「ふ、なんで口呼吸になってんの」

 「いや、なん、でき、な」


 ハクハクと口を開ける。

 目が潤んでいる。


 「…可愛い」

 「ッ、あ?」


 「清水。俺の血、美味しかった?」

 「わ、わからなっ」

 「あっそ。もっかい飲む?」

 「いや、いい。そんなに腹減ってない…」

 「それもそっか」


 神谷はあっさり離れる。昼休みのチャイムが鳴った。

 給食の時間だ、と教室へ向かってった。


 「…なんなんだ、アイツ…」


 人の居なくなった保健室の壁に、清水はずる、ともたれかかった。手で隠された顔は赤くなっていた。






 

一旦切りいいとこまで。

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