88 歪み
ピエロは王都の市場を歩きながら、今日の獲物を物色していた。
「ん~~~」
視線を泳がせていると、一人の少年が目に留まる。
先ほどアヤと遊んだ後遺症だろうか。今日はどうしても少年を殺したくなっていた。
すれ違いざま、自然な仕草で仕掛けを放つ。
そのまま何事もなかったように遠ざかると――
ズドォォォンッ!!
少年が爆ぜた。
「きゃあああっ!」
轟音と炎に包まれ、市場は一瞬で阿鼻叫喚と化す。
「ん~~~♪」
混乱を背に、ピエロは快感に打ち震えていた。
(こういう殺しも、またいい~~~)
さらに獲物を求めて歩き出す。
しばらく物色していると
「……ん~~~?」
(ひぃ~、ふぅ~、みぃ~……これは~~囲まれていますかね~~?)
気配を探れば、いつの間にか近衛騎士たちが四方を囲んでいる。
今のピエロは、どこにでもいる買い物中の主婦の姿。
正体を見抜かれるはずがない。
(ど~~してバレたんですかね~~?)
とりあえず人混みに紛れ、戦闘になれば一般人を巻き込める状況を維持して様子をうかがう――はずだった。
「動くな」
背後から低い声。
気づけば首筋に、冷たい剣先が触れていた。
「な、なんですかあなたはっ?!」
主婦らしい悲鳴を上げつつも、思考は冷静に巡らせる。
(ど~~いうことですかね~~?一瞬で背後を取られました~~。まるで転移でもしたみたいに~~)
「殺人の容疑で現行犯逮捕する。大人しくしてもらうぞ」
剣を突きつける騎士の声音には、揺るぎない確信があった。
「バレてしまっては、しょうがないですね~~~」
主婦の姿を保ったまま、ピエロの身体が風船のように膨れ上がっていく。
瞬間、剣が閃き――騎士はその首を刎ねた。
だが、異形の膨張は止まらない。皮膚が弾けるように広がり、空気そのものを巻き込んで――
ズドォォォンッ!!
轟音と共に炸裂した爆発の中心に、元の姿で立っていた。
白塗りの顔に赤い唇、滑稽でおぞましい笑みを浮かべたピエロ。
「ん~~~?これは面白いですね~~~」
市場だった場所が、いつの間にか石畳だけの広場へと変貌していた。
周囲の街並みが湾曲し、まるで歪んだ絵画のように遠くへと押しやられている。
「一般人を巻き込む訳にはいかないのでね。空間を広げさせてもらった」
青髪を後ろへ撫でつけた一人の騎士が、悠然と歩み出てくる。鋭い灰色の瞳が、ピエロを射抜く。
「空間の圧縮で距離を詰め、拡張で周囲の人を護ったのですか~~~やりますね~~~」
ピエロは騎士の能力を冷静に分析し、称賛の拍手を叩く。
「あなたが第四近衛騎士団の団長さんですか~~~?」
「いかにも、第四近衛騎士団長ギルバード。参る!」




