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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
3章 王都
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86 召喚されし者

「さすがに……多すぎた……」


「上位種も来るとは……」


「一層にいるモンスター……全て来たんじゃないか?」


「いや~、楽しかったな~」


マークたち戦神教の者は疲労困憊の中、アヤは満足そうだ。


夥しいモンスターの数が攻めてきたが、それもようやく終わった。


トレイシーとリマは儀式の準備が終えて、どこから出したのか、椅子に座って優雅にお茶をしていた。


「終わったようですね」


「アヤ兄かっこよかったよ♪」


「……トレイシー殿、儀式の方はどうなっているのだ?」


「モンスターたちの討伐が終わるまで待っていたのです。そのモンスターたちが儀式の贄でしたからね」


「……そういうことは先に教えてほしいものだ」


マークは疲れた様子で苦言を呈する。


「教えなくても向こうから来ますからね。それでは、始めますよ」


トレイシーが立ち上がり、魔法陣の前で呪文を詠唱する。


すると魔法陣の淡い光が強まり、黒く輝きだした。


ズドン!!


黒い雷のようなものが地面から奔り、魔法陣の中心から影が這い出る。


現れたのは、黒鉄の鎧を思わせる肌に赤い光の筋を刻んだ巨躯。

二本の角を生やし、両手で大剣を突き立てていた。


ただ立っているだけで、空気が冷える。胸の奥が掴まれたように苦しい。

戦神というより、もっと別の、恐ろしい何か。


誰もが息を呑み後ずさる中、ただ一人、声を上げた。


「お」


身体を震わせたアヤだ。その震えは恐怖からか、それとも


「俺と戦ってくれ!!」


耳を疑う叫びに、全員が目を剥いた。


だが異形の戦神は、ゆっくりと片手を上げ、手招きをする。


アヤの目が嬉しそうに輝き、抜刀の構えを取る。


「《フレイムウィング》」


アヤの背中から魔法の炎の翼が噴き上がる。


瞬間、アヤは弾丸の如き速さで、突撃し抜刀


ガキィィィン!!


耳が痛くなるような甲高い金属音が響き渡る。


渾身の一刀は、大剣にあっさり受け止められた。


「はっ!」


アヤの渾身の一撃が防がれたにも関わらず、その表情は楽しげだ。


刀を両手に持ち直し、さらに斬り込もうとした――その刹那。


見えぬ衝撃が走り、アヤは吹き飛ばされ、気を失った。


「なかなかやるものだ。小さき戦士よ。皆が我を恐れる中、立ち向かう勇猛さ。天晴れである。だが、その程度では我に届かぬ!」


「戦神様、頼みがあります」


トレイシーが一歩前に出て話しかける。


「お主が召喚者だな。我は戦神ではない。このダンジョンの管理者だ」


「……管理者?」


想定外の答えに、トレイシーは困惑した。


「契約は出来ぬ。しかしお主の望みは叶えよう。条件を呑めばな」


まだ何も口にしていないのに、管理者はすべてを見透かしたように告げる。


「条件?」


巨躯の手がトレイシーの頭に触れる。

次の瞬間、脳裏に奔流のような映像が流れ込み、喉が勝手に息を呑む。


「……わかったな?」


「……かしこまりました」


「それでは、その時まで我は今一度眠ろう」


巨影が背を向けたその時、マークが声を張り上げた。


「ま、待たれよ! 戦神様は……本当におられるのですか!」


「いる。だが、今はいない」


低い声が響き渡り、場が静まり返る。


「我は戦神により生み出されし存在。戦神を崇める者たちよ。巨剣を引き抜く者が現れた時、戦神も復活するであろう」


「おお……!!」


マークたちの目に熱狂が宿る。


だがトレイシーだけは、唇を固く噛みしめた。

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