85 戦神の試練
「トレイシーさん、すまねぇが明日じゃないと揃いそうにない。誰でもいいって言うんなら、今すぐでも集められるが……」
「ええ、明日で構いませんよ。急なお願いでしたからね。ああ、それと、一泊お世話になりますわ」
あまりに当然のように言うので、マークは目を瞬いたが、快く了承した。
「ん?ああ、構わんとも!歓迎するさ!」
翌日、マークを含めた筋骨隆々の男たちが五人集まった。
「これで全員揃ったな!皆、信用の置ける者たちだ!口は堅い!!」
「私たちは目立ちたくないから、あなたたちが前を歩いてくださるかしら?」
「任せたまえ!」
トレイシーの頼みを安請け合いをするマーク。
暑苦しい連中を隠れ蓑にして、一行は戦神の試練へと向かう。
巨剣の下には、石碑があるだけで入り口らしきものは見当たらない。
「あれ?入口どこだ?」
初めて来るアヤが疑問の声を上げるとトレイシーが答える。
「あの石碑に書いてあるけど、戦神の試練を受けたい、そう念じるとダンジョンに入れるわ」
「へぇー、そういう仕組か」
アヤは石碑を覗き込み、そこには確かに「戦神の試練」と名を冠した文言と、入り方が記されているのを見つけた。
言われた通りに巨剣に触れて念じると、世界が歪み、転移した。
「おお!ここが戦神の試練か!広ぇな!」
転移した先には森が広がり、青空も見える。ダンジョンの中とは思えないほど自然だ。
目の前にはまた石碑があり、試練の内容が書かれていた。
「第一の試練、ゴブリンを殲滅せよ。なるほどな。この試練を突破していくと先に進めるのか」
「ええ。でも……今回はやらないわ」
「……やらないのか!?」
ダンジョン初挑戦に胸を躍らせていたアヤは、露骨に肩を落とす。
「ええ、ここで儀式をするの」
「おお!」「早くも戦神様を召喚するのか!!」
アヤとは反対に、戦神教の者たちは興奮していた。
「私は儀式の準備をするから、あなたたちは近づくモンスターの相手をお願いね」
「承った!!」
マークたちは周囲へ散り、武器を構えて森の気配を探る。
「アヤ兄!しっかり守ってね♪」
「任せろ!」
リマの頼みに、アヤが元気を取り戻す。
トレイシーとリマは持参した魔道具を並べ、地面に複雑な紋様を描いていく。やがて中心に魔法陣が浮かび上がり、淡い光を放ち始める。
しばらくして、森の奥からガサガサと茂みが揺れ、低い唸り声が響く。
「……来るぞ!」
マークが短く叫んだ。
「グルルルルゥ!」
姿を現したのはウルフ。だが普段と違い、目は血走り、涎を垂らしている。
「いつもと様子が違うぞ!」
まるで何かに吸い寄せられるように、次々と飛び出してきて、一斉に突撃してきた。
「言い忘れてましたね。この魔法陣がモンスターたちを呼び寄せてしまっているのです」
「それを先に教えて欲しかった!!」
「問題ないでしょ?第一層にいるモンスター程度」
「問題!ない!!」
叫びながらも、マークたちは豪快に武器を振るい、ウルフを次々となぎ払っていく。
だがその直後――
「まだ来るぞ!」
森の影から、次なる魔物の群れが姿を現す。ウルフの他にゴブリン、ジャイアントバット、スライム。小型だが数が多い。
「おっさんたち、休んでいいぞ!ここからは俺がやる!」
アヤが一歩前へ出て、刀を抜いた。
「何を言う!まだまだ元気だ!休憩など必要ない!!」
熱血の雄叫びとともに、マークたちが再び突撃する。
アヤとマークたちは、押し寄せるモンスターの大群を相手取り、戦いの渦へと飛び込んでいった。




