83 日常と巨剣
「ご機嫌ね、ピエロ」
トレイシーが横目で問いかける。
「はいとてもたのし~~いですからね~~」
「それは何よりね。でも、ここに戻ってくるのやめて貰えるかしら。足がついたら、どうしてくれんのよ!!」
「おお~~こわ~~い」
突如声を荒げるいつものトレイシーに、大げさに反応するピエロ。
「はぁ……不安だわ。……あなた、私を殴って」
「へ、へい」
トレイシーはため息まじりに、最近のお気に入りの大男に殴ってもらう。
「ああん!」
ごつい拳が振るわれ、トレイシーは頬を歪ませながら快感に震えた。
その様子を、ピエロは羨ましげに凝視する。
「ん~~トレイシー、僕チンが殴っても?」
「ダメだ。ピエロ、俺と戦え。リマ、いいよな?」
アヤがピエロの前に立ち塞がり戦いかがる。精神支配されているアヤはリマからの許可を求めた。
「うん♪いいよアヤ兄♪」
リマはにこにこと頷き、茶菓子を口に運ぶ。
「遊んでくれるんですか~~?」
ピエロはナイフを指の間でくるくると回し、アヤと対峙した。
しばらくして、トレイシーの手下の男がその部屋に入ってきた。
「姉御、準備が――」
がちゃりと扉を開けて立ち止まる。
「痛いっ!痛いわ!もっと殴って!!」
トレイシーの嬌声が響き、
「はぁーはっはっはっ!なんだそれは!!俺にも教えろ!!」
アヤが悪魔みたいに笑いながら切り刻まれ、
「よ~~く見ててくださ~い。こうするんですよぉ~~」
ピエロはナイフを振り回す。
その横でリマは、平然と座ってお茶菓子をつまんでいる。
部屋の中は、混沌としていた。これが、ここ最近の彼らの日常である。
「ん~~っ! 久しぶりに外へ出られたな!」
王都の外へ踏み出すや、アヤは大きく伸びをした。
先ほどピエロに切り刻まれた傷は、綺麗さっぱり治っている。
ここ数日は隠れ家で待機するばかりで、退屈を持て余していたのだ。
「仕方ないでしょ? あなたが出歩いては困るんだから」
横目で釘を刺すトレイシーの痣も完治して、元の美しい素顔に戻っている。
「よかったね、アヤ兄♪」
リマが屈託なく笑う。
「ああ! 戦神の試練、楽しみだな!!」
アヤの瞳がきらりと光る。
こうして三人は、ダンジョン《戦神の試練》を目指して歩を進める。
王都を離れておよそ一時間。
草原を抜けた先、彼らの視界には大地に突き立つ一本の巨剣だった。
天を衝くその剣は、近づけば近づくほど威圧感を放ち、王都からでも見えるほどの巨大さを誇っている。
「見えてたからわかってたけど……間近で見ると迫力が違うなぁ」
思わず立ち止まり、アヤは剣を見上げる。
「ほんとにでっかいねぇ~」
リマも同じく見上げて答える。
「まずは戦神教の連中に会うわよ」
トレイシーが促した先、剣の根元にはいくつかの建物が並んでいた。




