82 対処
「ん~ん~~んん~~んん~~ん~ん~~んん~~~♪」
上機嫌に鼻歌を響かせるピエロは、宙に腰をかけるように浮かびながら、手に持っているナイフを丁寧に磨いていた。
床には血溜まりが広がり、室内は惨劇そのもの。
「も”う”ぉ”……あ”ぇ”……え”」
「おお~!素晴らし~~い!!まだ生きていますねぇ~~~」
「ん~?もう少しここをこう、ですかねぇ~~?」
「い”あ”!……う”……」
「い~~い作品ができましたぁ~~」
「はぁ~~さいこうですねぇ~~~」
ピエロは恋する乙女のように顔を紅潮させ、天を仰ぐ。
まるで時が止まったかのように、ぴくりとも動かず、その場に数時間も留まった。
やがて満ち足りた吐息を漏らすと、ご満悦の笑みを浮かべてその家を後にした。
――翌朝。
「うわああああああっ!!」
店の従業員によって、その地獄絵図が発見された。
それから数日――
ここ最近、凄惨な無差別殺人事件が起こり、ヴィクトリア王は頭を悩ましていた。
王都の治安を守る第四近衛騎士団がいるにもかかわらず、犯人は未だ捕まらない。相手は相当な手練れか、あるいは入念な準備をした者か。
「仮に、この一連の無差別殺人が計画的なものだとすれば、次の一手を打ってくる可能性が高いでしょう」
王の推測に、宰相が眉をひそめる。
「何かとは、具体的に?」
「それがわかれば苦労しません」
嫌味な宰相に、にこりと微笑んで短く切り捨てた。
「そうでしょうなぁ。しかし、第四近衛騎士団と兵士たちが捜査しています。犯人が捕まるのも時間の問題でしょう」
「……第五と第三近衛騎士も動かします」
「第五と第三も?!……それは幾分過剰かと」
「ええ、ですが、この事件は早々に解決させるべきと見ます」
「しかし――」
「全員を動員する訳ではありません。第五からナズ団長を第三から副団長を派遣します」
王の決意は固いようだ。
「……かしこまりました。呼んでまいります」
やがて執務室の扉が開き、二人の騎士が進み出る。
「第五近衛騎士団長ナズ=ナ=レーヴ」
「第三近衛騎士副団長ジーク=イ=ハースト」
「「陛下のお召しに従い、ただいま謹んで参上いたしました」」
二人は跪き、臣下の礼を取る。
「二人には王都で起こっている無差別殺人事件の捜査を協力してもらいます」
「「はっ!」」
「必要ならば数名の騎士をそれぞれの団から選んで連れて行きなさい」
「承知しました」
ナズは即答する。一方、ジークは一拍置き、静かに口を開いた。
「陛下、質問をよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん」
「今回の事件を解決するには、第四近衛騎士団と兵士たちだけでは不足とお考えなのでしょうか」
「いいえ、不足とは考えていません。ただ人員を増やし、早急な解決を求めます」
「承知いたしました。すぐに人選を済ませ、早急に解決させてみせます」
「頼みましたよ」
二人は退室し、すぐさま行動に移る。
直後、執務室に控えていた文官が一歩進み出た。
「……陛下、占いの報告が入りました」
「何か出ましたか?」
「……はい。戦神の試練において、スタンピードが起こる、と」
衝撃的な内容に、執務室にいた皆が驚愕し、啞然とした。




