81 悪だくみ
「この王都にはウルトが使えるS級の奴らが最低でも七人います。近衛騎士に三人、宮廷魔導に一人、冒険者ギルドに二人、教会勢力に一人。まったく……多すぎんだよォ!!」
トレイシーが苛立ちを隠せず声を荒げた。だが次の瞬間には、すっと表情を戻し、淡々とした声になる。
「つまり全員を相手にするのは不可能。上手いこと散らしながら、目的を遂行しなければなりません」
「オリサが王宮へ招待されたよ♪」
「そうね。上手いこと利用できればいいわね」
トレイシーにとってオリサは計画の内に入っていない。あくまでもクレイドがリマに授けた策である。
「まずは王都で無差別殺人事件を起こします。これで一人は釣れる。うちの子にやらせるつもりでしたが、ピエロの方が適役でしょう」
「そうだね♪」
「その間にスタンピードを発生させます。モンスターたちが王都に侵入してくれればいいのですが……無理でしょうね。はぁ……」
王都の頑強さを想像して、溜息を吐く。
「スタンピード中にピエロにも暴れてもらいます。強敵な無差別殺人鬼を放置などできないでしょう?」
今度は楽し気に話す。
「最後に囚人たちを脱獄させます。ふふっ、これで王都も混乱の渦に飲まれますね」
トレイシーはそれを想像してご満悦だ。
「それでトレイシーが王宮に潜入だね♪」
リマのその一言にトレイシーは黙り込む。
「……そうね。はぁ……上手くいくかしら?」
一転して、先ほどの高揚感が嘘のように不安げな顔になる。
「それで、俺は何すればいいんだ?」
アヤが静かに問いかける。
「そうねぇ……」
トレイシーが指示を出すより先にリマが答える。
「アヤ兄はわたしと一緒に囚人を脱獄させた後、王宮へ突撃だよ♪」
「あら?そこまでしてくれるの?」
トレイシーは驚きを隠さず、目を丸くした。
「うん♪その隙に潜入してね♪」
「助かるわ」
「王宮へカチコミに行くのか。面白れぇ」
アヤの挑戦的な発言に、トレイシーはふっと目を細めた。
王宮への突撃なんて自殺行為でしかない。それを楽しみにするこの子も狂ってる。トレイシーはそう感じた。
「リマがあなたを気に入った理由がわかったわ」
話がひと段落したその時――
アヤが刀を抜く。
ガキィン!!鋭い金属音が響き渡る。
「誰だお前」
現れたのは、道化の化粧をした男。ステッキでアヤの刀を受け止め、へらへらと不気味な笑みを浮かべる。
「ん~~なかなかやりますねぇ~」
「アヤ兄!そいつがピエロだよ!わたしたちの仲間♪」
「仲間か。侵入者かと思ったぞ」
アヤは大人しく刀を鞘に収める。だが、トレイシーの眉間には深い皺が刻まれていた。
「……ピエロ。まだあなたのこと呼んでないわよ」
「そろそろ呼ばれる気がしたのでね~?」
「はぁ……確かに呼ぼうと思ったところだわ」
「そうでしょうそうでしょう」
うんうんと頷くピエロは、背筋の冷える笑みを浮かべていた。
「あなたにはこれから王都で無差別殺人をしてほしいの。やるでしょ?」
「おぉ!それは最高ですね~。無差別でいいんですねぇ~?」
にやりと不気味に笑う。それに嫌な予感がしたトレイシーが釘を刺す。
「うちの子には手を出さないで」
「おんや~?それじゃあ無差別じゃありませんねぇ~?」
「まったく、あんたは相変わらずうざいわね」
「遊んでくれるんですか~?」
トレイシーとピエロの間に、一触即発の雰囲気が漂う。
「ピエロ、言うこと聞いて!じゃないと――」
「わかっていますよ~少しからかっただけです」
しゅるりと身を引くピエロ。その顔には、やはり不気味な笑みが貼りついたままだった。
「それと、戦神教の奴らにも手を出さないで。使うんだから」
「あの脳筋共ですか~あんなの使えるんですか~?」
「使える物は使うわ」
「そ~ですか~。それにしても滑稽ですね~戦神が何なのか、知らずに崇めるなんてね~?」
ピエロは肩を揺らして笑う。




