79 オリサ王宮へ
オリサは状況についていけてなかった。
たまたま知り合った冒険者の少年アヤを、王都で見かけたと冒険者ギルド職員にそれとなく伝えた。ただそれだけで、まさか冒険者ギルドの元グランドマスターから呼ばれ、更には王宮にまで招待されることになるとは予想だにしていなかった。
「まさか私が王宮に足を踏み入れるとはね。長生きはしてみるもんだね」
「王宮へは初めてだったのか」
オリサの呟きにカイザが応える。王宮へはカイザと共に招待されている。相手は第二王子だ。
「ええ、私は学者の中でも爪弾き者だったからねぇ」
「ふむ。そうだったか……」
カイザはオリサのことを警戒していた。学者の爪弾き者、それは邪神教との繋がりがあってもおかしくない立ち位置の人間だからだ。それにエルナの町近くにある遺跡が邪神教と関係がないとも言い切れない現状、警戒せざるを得ない。
やがて王宮の門へと辿り着き、門番に招待状を渡す。
「招待状を拝見します。……カイザ様とオリサ様ですね。お二人は妹か娘はいますか?」
「?私にはいませんね」
「儂もおらん」
「そうですか。それでは、こちらへどうぞ」
門番の質問の意図がわからないオリサだが、カイザには理解できた。
(リマの精神支配を見分けるための上手い質問だな。よく思いつくものだ)
二人は案内されて、クロノア第二王子が待つ部屋へと通される。
部屋にはクロノア以外にもレオとメル、それにセラフィーヌ王女の四人が座っていた。
「お初にお目にかかりますクロノア第二王子殿下」
オリサは丁寧に挨拶をする。
「お久しぶりですクロノア王子にセラフィーヌ王女」
続けてカイザが二人に挨拶をする。
「うむ。よく来てくれたなオリサにカイザ殿。まずはオリサに妹を紹介しよう。セラフィーヌだ」
「お初にお目にかかりますセラフィーヌ王女殿下」
「初めましてオリサさま。どうぞお気楽にしてくださいませ」
セラフィーヌが席を勧めて二人は座った。
「そしてこっちの二人が、アヤと孤児院仲間のレオとメルだ」
オリサはメルに視線を向け、懐かしそうに目を細める。
「久しぶりねメルちゃん、元気そうだね」
「お久しぶりです。オリサおばあちゃん」
メルは背筋を伸ばし、嬉しそうに丁寧な口調で応じる。その話し方にオリサは、メルの成長を感じて微笑ましく目尻下げた。
視線を隣に移してレオにも声をかける。
「レオくんと話すのは初めてだね」
「お久しぶりです、でいいのかな?すみません、オリサさんのことは覚えていなくて……」
レオはどこか申し訳なさそうに言葉を探す。
「仕方ないさ。孤児院には一度しか訪ねてないからね」
オリサが穏やかに笑うと、レオは胸のつかえが少しだけ下りたように息をついた。
「そこでメルと?」
「そうさねぇ。メルちゃんとそこで仲良くなって、それからも何度か話す機会があったね」
エルナの町での平和な思い出に浸る。
「コホンッ!儂も二人に挨拶していいかな?」
カイザが咳払いをして、話に割り込む。
「ええ、すいませんね」
オリサはもうなくなってしまったエルナの町を思い出して感傷的になってしまっていた。
「初めまして、儂はカイザ、冒険者ギルドの元グランドマスターだ」
「初めまして、カイザさん。えっと、よろしくお願いします」
「初めまして。レオです。この出会いにルセリア様へ感謝を」
「挨拶も済んだようだな。早速本題に入ろう。オリサは王都でアヤを見かけたのか?」
カイザはもう少し二人と話したかったが、クロノアが口を開いたので、そのまま本題へと話が進んだ。




