78 目撃
「もう一人来るよ♪」
リマのその一言で、さっきまでの豹変っぷりが幻覚だったかのように、元の落ち着いた表情に戻る。
「そう、あなたたちだけじゃなかったのね。誰かしら?」
「ピエロ」
その名を聞いた瞬間、トレイシーの眉がぴくりと跳ねる。ピエロは本名ではない。ただそう呼ばれている男だ。
「あの快楽殺人鬼ですか……それなら確かに……やりようはありますね……でも心配だわ。うちの子たちに手を出さないといいのだけれど」
戦力的には申し分ないが、性格を知っている分、トレイシーは不安げに呟く。
「必要になったら送るから連絡してって」
「そう、それならよかったわ。あの根暗が配慮してくれるなんてね」
「パパは根暗じゃないよ!」
「……何を言ってるの?あいつ一人で王都の怪物どもと渡り合えるのに!なんだかかんだ言って王都に来もしない奴は根暗だろうがああああ」
言いながらどんどん豹変していき、クレイドへの不満が爆発する。
「……はぁ。もういいわ。あの根暗の話はどうでもいい。計画を進めましょう」
「その前に、アヤ兄の目撃情報を流すといいって」
「その子の?……アヤと言ったかしら?あなたのこと、色々と知りたいわ」
一週間後―――
レオとメルは、クロノア王子とセラフィーヌ王女の四人で、魔法学園に備えた勉強会を不定期に開いていた。
今日の学びを終え、場が和みかけたところで、クロノアが徐に口を開く。
「レオ、メル……アヤが王都で目撃されたという情報が上がった」
「アヤが?!」「……一体誰が?」
メルの驚きの声とレオの冷静な問いの声があがる。
「オリサという考古学者が、アヤらしき人物を見かけたそうだ」
「オリサおばあちゃん?」
メルがぱっと顔を上げ、驚きと懐かしさがこみ上げてくる。
「メル、知ってるのか?」
「レオは知らない?エルナの町にいた遺跡調べてるおばあちゃん」
「……いや、覚えてない」
レオは眉をひそめ、記憶を探るが、どうしても思い出せない様子だ。
「調べた限りでは、メルの言う人物と一致している」
「そっか……オリサおばあちゃんも王都に来てたんだね!」
そのメルの声は弾み、部屋に明るさを取り戻した。
「二人ともオリサに会ってみるか?」
「うん!あ、会いたいです」
メルが元気よく頷いた後、思い出したように丁寧な口調で言い直す。まだまだセラフィーヌのような話し方は身に付かない。
「僕も会ってみるよ」
「わかった。手配しよう」
クロノアが了承し、オリサとの面会が決まった。




