77 計画
三か月後――
アヤはリマと共に王都へ来ていた。
日はすでに沈み、夜闇に包まれた時刻。正門は閉ざされ、二人はフードを深くかぶり、足音を忍ばせて行動する。
王都を囲む壁に魔道具を当てると、人ひとり通れるほどの穴が開いた。そこから中へ潜り込む。
「ここが王都アルケインか」
「まずは隠れ家に行って仲間と合流、それからオリサって人に会ってお話して、ダンジョン戦神の試練でスタンピードを起こす準備だね~」
「……やること多いな」
魔道具を回収して穴を塞ぐと、二人は街路の闇に紛れ、隠れ家へと歩みを進めた。
「ここだよ♪」
「ここか」
たどり着いたのは、一見何の変哲もない一軒家。扉を叩くと、中から声がした。
「何用か」
「悲しき愛の女神様を敬愛せし者」
「……入れ」
合言葉を告げると、軋んだ扉が開く。二人はフードを外して中に足を踏み入れた。
「なんだぁ?ガキじゃねぇか」
出迎えた男が怪訝な顔をするが、リマは気にも留めずずかずかと歩を進める。
「おい、勝手に歩くんじゃねぇ!」
「うるさいなぁ」
バチィン!
袖口から走った鞭が閃き、男の頬を打ち据えた。
「さっさと案内しなさいっ!」
「……へい」
リマの命令に素直に従う。技で一時的に精神を縛る鞭だ。
リビングに通されると、両隣に女を侍らせて偉そうに座る男。
床には痣だらけで倒れ伏す女と、拳を振るったであろう大男。
アヤは即座に踏み込み、大男を殴り飛ばす。
「ぐへぇっ!」
巨体が壁に叩きつけられ、場が騒然とする。
「てめぇ、入ってきて早々何のつもりだ!」
偉そうな男の怒声を無視し、アヤは倒れている女性のもとに膝をつく。
「《ヒールフレイム》」
緑の炎が女を包み、傷と痣がみるみる消えていく。
「……どうだ?」
「……はい。治りました。ありがとうございます」
怪我が治って驚きに目を丸くする。女性は立ち上がってお礼を述べた。
「ほう、フェニックスの炎を模した魔法か。恐れ入ったね」
先ほど怒鳴り散らした男もその魔法には驚いた。
「口を開くな。三下に用はねぇ」
「……なんだと?」
男がぎろりと睨む。
「一番強いのはあんただろ?なのに、なんで痣だらけで倒れてた?」
アヤが今しがた手当てをした女性に向かって話す。
「……あら。バレていましたか」
リマが小さく笑う。
「相変わらず変な趣味だね♪トレイシーは」
トレイシーは恍惚とした笑みを浮かべて語る。
「痛みは生を実感する最も尊いものなのですよ……リマには、まだ早いかしら?」
偉そうだった男と女たちが立ち上がり、トレイシーに場を譲った。
「さて、クレイドはあなたたち二人を寄越して、一体何をさせるつもり?」
「計画を実行するって♪」
「そう……」
次の瞬間、トレイシーの表情が豹変する。
「――あのクソ野郎が!!ガキ二人と私たちだけで!どうやって王都の怪物どもを相手にしろっていうんだ!死ね、陰険根暗がぁぁぁああ!!」
恍惚から一転、激情が爆発する。部屋の空気が震えるほどの咆哮が響いた。




