69 クロノア
お茶会を終え、クロノアは自室へと戻った。
「……無事に終わったな」
深く息を吐き、背もたれに身を預ける。
昨日、母上ヴィクトリア王と妹セラフィーヌと共にリオネルと面会した際に、レオの友人であり、メルの想い人でもあるアヤが誘拐されたと知らされた。
リオネルは二人に伝えるために王宮へ来たようだったが、正直、俺は伏せるべきだと考えた。
不用意に告げれば、メルもレオもアヤを探しに王宮を飛び出すのは目に見えていたからだ。
しかし母上は伝えるべきだと判断し、さらに「明日の夕餉には報告を聞こう」と期日まで定められた。
なぜそこまで急がせたのかは分からない。ただ、その采配に俺たちは従うしかなかった。
そこでセラフィーヌが中心となって打ち合わせを重ね、二人の反応を想定し、伝え方を整えた。
結果は――ほとんど妹の読み通りだった。
「それにしてもセラフィーヌはさすがだな。ほとんど想定通りだ」
「殿下の妹君でございますから」
執事モーリスが恭しく応じる。
「だが、さすがにメルが、アヤはエルフなのかと尋ねたのは予想外だったろう」
「まさかエルフがなんなのか、わかっていなかったとはな」
「孤児の出です。仕方ありますまい」
クロノアは渋い顔で首を振る。
「出自は関係なかろう。レオは同じ境遇でも知っていたのだから」
「……申し訳ありません」
「むしろメルは、エルフも獣人も区別なく同じ人と見ている。アメリオ王国は共存を誓った国だ。その意味では、彼女の在り方こそ理想的だ。ますます気に入ったね」
クロノアは上機嫌に言い放ったが、モーリスの表情は浮かばない。
「……殿下には、もっとふさわしい方がいるかと」
「メルに関しては、意見が合わんな。まぁいい。全ては学園に入学してから決めるとしよう」
「恐れ入ります」
もとよりその予定だったのが、クロノアはメルと出会ってから、メルに惚れ込んでしまっている。
しかし、メルには既にアヤという想い人がいるために、クロノアからの求婚を断ってしまった。
それがモーリスの気に入らぬ所以である。
モーリスが時間を見て、話題を切り替える。
「この後の晩餐にて、お客人をお招きしております」
「客人?」
「はい。冒険者ギルドの元グランドマスター、カイザ様です」
「……ほう。一度会ったな」
「それと、今回のエルフ誘拐未遂およびアヤ殿の誘拐事件に関わっているとのこと」
眉間に深い皺を刻み、クロノアは低くつぶやく。
「……初耳だぞ」
「私も先ほどのお茶会での結果を報告した際に、知らされたばかりでございます」
クロノアは目を細めた。
「ふむ。やはり何かあるな」
準備を整えたクロノアは、まるで戦場に赴くかのような覚悟を胸に、部屋を後にした。




