67 リオネルからの知らせ①
中庭にはすでに、リオネルとメル、そしてセラフィーヌが座っていた。
「すみません。遅れてしまいました」
王女を待たせてしまったと思い、レオは謝った。
「いいえ、わたくしが早めに来たのです。時間通りですよ」
「そう、でしたか」
レオは礼儀正しいセラフィーヌ王女の前では、まだまだ緊張してしまう。
「久しぶりだね、レオ」
席に着くなり、リオネルが親しげに声をかけた。
「そんなに久しぶりってほどでもないですよ」
レオは柔らかく微笑み、緊張をほんの少し和らげる。
「後はお兄さまだけですね」
しばらくして、クロノア王子が姿を現した。
「もう揃っていたのか」
落ち着いた声とともに歩み寄る姿は、さきほどまで訓練場で木剣を振るっていた少年ではなく、王族の風格をまとった王子そのものだった。
「お久しぶりです、クロノア王子殿下」
リオネルが椅子から立ち上がり、礼儀正しく頭を下げる。
「久しぶりだな。――では、始めようか」
クロノアが微笑み、席に着く。執事の合図で、テーブルに彩り豊かな茶菓子と湯気の立つ紅茶が並べられた。場が整うや否や、クロノアはすぐに本題を切り出す。
「それで、話というのはなんだ」
いつもならセラフィーヌ王女が窘めるのだが、素知らぬ顔で紅茶を口へと運んで静観する。
メルは教わったお茶会の作法から外れた流れに戸惑いつつ、セラフィーヌを真似る。
レオも状況が掴めず、場の流れに任せた。
「早速ですね。殿下、せっかちは嫌われますよ」
リオネルが苦笑混じりに宥める。だがクロノアは構わず、短く言い放った。
「いいから話せ」
強引さに押され、リオネルはまいったように肩を竦めて口を開く。
「四日前にルグラン侯爵領で、エルフの誘拐犯を捕まえて、エルフたちを助けました」
言葉を選びつつ、侯爵家に不利益が及ばぬよう注意を払う。
「そうだったな。大儀であった。が、偶然なんだろ?」
クロノアの鋭い問いかけに、リオネルは一瞬ためらい、それでも静かに答えた。
「……ええ、冒険者のおかげで発覚しました」
「その冒険者は誰だ」
「レオとメルのお友達の、アヤです」
「アヤ?」
名を聞いて、メルがぱっと顔を上げる。
「アヤには感謝せねばな。前回の魔族撃退に、今回のエルフ救助までしているとは」
「本当に。わたくしもぜひお礼を申し上げたいですわ」
クロノアとセラフィーヌが口々に称えると、メルは自分のことのように嬉しそうに微笑んだ。
「話を遮ったな」
クロノアが続きを促す。
「いえ、その後エルフ誘拐の主犯を捕まえるためにエルディアへ騎士を行かせ……逃がしてしまいました」
リオネルは一瞬だけ視線をレオとメルに向け、それから慎重に口を開く。
「その主犯は小さな少女でした。……そして彼女はアヤのことを兄と呼び、アヤを連れ去ったのです」
「え?!」
「……兄?」
メルが驚き、レオは険しい顔をする。
「アヤには妹がいたのか?」
クロノアはレオへ視線を向ける。
「……いえ。少なくとも、俺は聞いたことがありません」
レオが短く答える。その横顔は硬く、思考を巡らせているのが見て取れた。
「でも兄って呼んでたんでしょ?えっと、アヤは、エルフなの?」
メルは混乱のあまり、突拍子もないことを口にする。
「メル、アヤはエルフじゃないよ」
レオが苦笑まじりに優しく教えた。
「そうなの?」
メルは小首をかしげ、素直に問い返す。
「うん。エルフは耳が尖っているんだ。アヤの耳は尖ってなかっただろ?」
「耳が尖っている……?」
メルの視線が、なぜか後ろに控えるナズ騎士団長の狐耳に吸い寄せられる。
「メル様、私の耳とエルフの耳は違いますよ」
ナズはわずかに赤面し、咳払いをして説明した。
「メル様の教師となったイングリッドが、正真正銘のエルフです」
「あっ、そういえばイングリッド先生エルフって言ってた!そういう人たちがいるんだね」
無邪気に納得するメルに、場の空気がふっと緩む。




