66 友情の力
「また俺の勝ちだな。レオ」
王宮に住み始めて五日目、レオは毎日クロノア王子と模擬戦をしていた。
息を切らしたレオの木剣が、がらんと地面に転がる。額から汗が滴り、視界が揺れる。
「はぁ…はぁ…強いですね」
「《覚醒》を自在に発動できなければ、クロノア王子には勝てませんよ」
レオを指導するナズ=ナ=レーヴ第五近衛騎士団長が淡々と告げる。
「なかなか難しいですね。追い詰められないとまだ発動できません」
「うーん、模擬戦だから、緊張感が足らないのか?」
クロノア王子が疑問を投げると、ナズは静かに否定した。
「いえ、意志が弱いのです」
「意志?」
ナズはレオの足らない部分を指摘する。
「レオは絶対に勝つという意志が足りません。だから追い詰められないと発動できないのです」
「なるほど、勝利への渇望か」
クロノア王子が納得して頷くが、レオは納得していない。
「僕は、ちゃんと勝つつもりで戦っています!」
鋭く睨み上げるレオに、ナズは落ち着いた口調で話す。
「レオ、勇者を目指すつもりなら、これだけは覚えといてください」
一拍置いて、語りかけるように、重みを込めて言葉を落とした。
「勇者は、どんな敵、どんな状況でも、絶対に負けてはいけないのです。絶対に、です」
その静かな迫力に、レオの喉がひくりと動いた。
「……絶対に」
「ははっ!確かにその通りだ!例え模擬戦だろうと勇者が負けることが、あっていいわけないな!」
クロノア王子が快活な笑い声が、訓練場に響く。
「僕は、そうは思いません」
レオはナズを見上げて反論する。
「何度負けても諦めず立ち上がり、そして最後には、必ず勝つ!……それが真の勇者です」
その信念は――友の、アヤが教えてくれたものだった。
その瞳には強い意志が感じられた。
ナズはしばし彼を見つめ、わずかに表情を緩める。
「それほどの力強い意志があるのなら……《覚醒》を発動できるはずですよ」
レオは驚いたように目を瞬かせ――やがて、迷いを振り払うように真剣な眼差しを返した。
「……やってみます」
(アヤ。どうか、力を貸して)
いつもなら光の女神ルセリアへ祈っていた少年が、初めて親友へと祈る。
その瞬間、胸の奥から熱がこみ上げた。
「《覚醒》!」
光が迸り、レオはひとつ、確かに壁を越えた。




