63 悪夢②
「どうですか?一度死んでみた気分は」
クレイドは口角を吊り上げ、愉悦を滲ませて問いかける。
「はぁ……はぁ……っ」
カイザの胸が激しく上下する。まだ腕や脚の骨が砕ける感覚が残り、皮膚の下で鈍痛が走っている気がした。
幻だと頭では理解していても、確かに死んだ感覚が体に焼き付いている。
(幻術か……!くそったれ!!)
「おやおや、ウルトによる防御が、解かれてしまっていますよ」
クレイドは杖による突きがカイザに突き刺さる。
「ぐあっ!」
カイザはそのままノーラたちの元へと吹っ飛ばされた。
「これで私の攻撃が当たりますね」
「カイザ殿?!」
ノーラは吹き飛んできたカイザを受け止め、驚きの声を上げる。
リマはその隙を逃さなかった。
アヤの元へと向かう。
「《チェインジェイル》!《娘のお願い》」
アヤを守る二人の騎士に鎖の拘束魔法で足止め、もう一人に鞭の技で牽制し、もう一本の鞭でアヤを回収した。
「しまった!」
騎士が焦りの声をあげると、ノーラが向き直り、アヤを拘束した鞭に斬りかかろうと突撃する。
しかし、それを防ぐように白いのっぺらぼうが立ち塞がる。
「邪魔するな!」
ノーラの剣がのっぺらぼうを真っ二つに裂く。
だが次の瞬間――自分の腹が同じように裂ける痛みが走り、鮮血が飛び散った。
(え?)
「がはっ!」
口から血を吐き、ノーラは困惑したまま地に崩れ落ちる。
しかしのっぺらぼうが霧のように掻き消えると、その傷もまた跡形なく消え去った。
――まるで死の幻をなぞらされたかのように。
「アヤ兄を取り戻したよ!パパ♪」
リマは嬉しそうにアヤを抱きかかえ、跳ねるようにクレイドの元へ駆け戻る。
「よくできましたね。それでは、帰りますよ」
(このままでは、転移で逃げられる!)
「行かせるかッ!」
カイザが立ち上がり、突撃する。
だが――透明な壁に激突し、阻まれた。
「それでは皆さん、娘と遊んでいただきありがとうございます。また、会いましょう」
クレイドはそう言い残し、リマとアヤを連れて転移してしまう。
「……っ」
ノーラがよろめきながら立ち上がる。だが、追うべき相手の姿はもうどこにもない。
敵の捕縛もできず、目の前で、大切な少年が連れ去られてしまった――その事実が胸を締め付けた。
「くそっ!」
カイザは拳を地面に叩きつけ、悔しげに顔を歪める。
その肩は小刻みに震えていた。
「……儂の……判断ミスだ……」
かすれた声が空しく響き、敗北の影が濃く落ちていた。
ノーラも騎士たちも、呆然としながら、アヤを守れなかった無力感に沈んでいた。
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