62 悪夢①
カイザとクレイドが睨み合っている中、リマは気絶したアヤの方を見る。
アヤは騎士たちによって拘束されていた。
「アヤ兄を返して!」
リマが怒る。
「それはこちらのセリフです。アヤくんを解放してもらいます」
ノーラと二人の全身鎧を身に付けた騎士が立ちはだかる。
「あなたたち如き、私の相手にならないよ!」
リマの鞭がしなり、空気を裂いて騎士たちへ迫る。
だが二人の全身鎧の騎士が盾と剣で受け止め、防がれる。
直後、ノーラが低く構えて突進する。
「シールドバッシュ!」
リマは横に跳んで躱すが、反撃の鞭もまた二人の騎士に阻まれる。背後からは魔術の弾が飛び、ノーラは間髪入れず再突撃。連携は隙がなく、リマは追い込まれていく。
(どうしよう……! ウルトは今日二回も使っちゃったし、もう発動できない)
(チェインジェイルで捕まえたいけど……あのお姉さんは絶対に斬っちゃう。それに魔力も、残り二発分しか……!)
リマは焦燥に頬を紅潮させながら鞭を振るい続ける。
そんな娘の奮闘を、クレイドはカイザと斬り結びながら眺めていた。
「ふふっ、娘が懸命に戦う姿……実に微笑ましい。カイザさんにも、可愛いお子さんがいますか?」
クレイドの声音は穏やかで、まるで親しい友人に世間話でもしているかのようだった。
その余裕と嘲りの笑みが、カイザの胸に焼けるような怒りを呼び覚ます。
「貴様に、殺されたわぁ!!!」
咆哮とともに振り下ろされた大剣が、憎悪の重みを帯びて空気を震わせた。
「おや?そうでしたか」
クレイドはその一撃を受け止めながら、まるで蚊に刺された程度の反応しか見せない。
「死ね!《レイジングブレイド》!」
カイザの怒号と共に、大剣一振りで嵐の如き剣閃を生み出す。
刃が閃光となって連続で叩き込まれ、周囲の空気すら切り裂くほどの猛攻――。
だがクレイドは、それを全く意に介さず、その全てを捌ききる。
全てを防ぎ切った、クレイドの声色には相変わらず薄笑いが浮かんでいた。
「ふふっ、カイザさん。あなた、老いましたね」
「黙れ! 相変わらず癇に障るやつだ!」
吠える声とは裏腹に、カイザの胸中には焦りが渦巻く。
(儂のユニークスキルを――簡単に凌ぎおって!)
「それにしても困りましたね」
クレイドは肩をすくめ、わざとらしく嘆息した。
「あなたのウルトは受け流しのスキルと風の結界魔法を組み合わせた防御型……これではこちらの攻撃が当たりませんね」
不意に、彼の声音が一段低くなる。
「――当たらないのでは、仕方ありません」
その口元に笑みを深め、呟く。
「お見せしましょう。ウルト【這い寄る混沌】」
クレイドのウルトが発動すると、カイザの目の前に、人型の白いのっぺらぼうが現れる。
次の瞬間、その首がぐり、と不気味に捩じれた。
「ぐぁっ!!」
カイザの首も同じ角度に引き攣れる。見えない鎖で繋がれたかのように、彼の体はのっぺらぼうと完全に連動していた。
肘が逆に曲がり、膝が不自然に折れ、骨が砕ける鈍い音が響くたびに、カイザの喉から苦悶の呻きが洩れる。
「あ゛……が……っ」
最後に、のっぺらぼうが全身を大きく捩じる。
――メキィッ!
四肢が千切れ飛び、血飛沫と肉片が宙を舞った。




