61 カイザVS
「まさかウルトが使えるとはな」
突然聞こえてきた声にリマは狼狽える。
「誰?!」
――ガシャンッ!!
鎖の牢が一斉に断ち切られ、金属音が響く。
リマの目の前に突如として現れたのは、大剣を担ぐ老人――カイザだ。
「さて、弟子を解放してもらおうか」
低く告げられた言葉に、リマは思わず一歩退く。
しかし――。
「やめろ」
その間に割って入ったのはアヤだった。
「アヤお兄ちゃん!」
リマはぱっと顔を輝かせる。
まるで自身が精神支配をしていることを忘れてるかのように、心底嬉しくて声を弾ませた。
アヤはリマを庇うように前へ立ち塞がり、冷ややかな声で言い放つ。
「妹に、剣を向けないで貰おうか。カイザさん」
アヤはリマを背に隠して庇うように立ち塞がった。
カイザの眉がわずかに動く。
アヤの眼差しには迷いはなく、本気で妹を守ろうとしている。
「なるほど、そういうウルトか」
カイザは小さく息を吐いた。
(アヤの認識は完全に書き換えられておるな。まったく、ウルトによる精神支配というのは、厄介なものだ。術者を殺したところで、解放できるかは分からん。本人に解除させるのが一番手っ取り早いの)
(だが、その前に――)
「アヤ、お主にはまだ師匠らしいことが何も出来ていない。じっくり鍛えるつもりだったが、少し師匠の力を見せてやろう。来い!」
カイザの堂々とした構えに、アヤは一瞬で間合いを詰めて――抜刀
横薙ぎ一閃
鍛冶屋で見せた見事な抜刀術だが、カイザは滑るように、体を回転させて受け流した。
そのまま、返す刀で手刀を繰り出す。
「ガッ!!」
乾いた衝撃音とともに、アヤの首筋に命中。
アヤはその場に崩れ落ち、意識を刈り取られた。
カイザがアヤと戦っている間に、リマは準備していたウルトを発動する。
「あなたは私のお爺ちゃんだよ!ウルト【二人の絆】」
またもやリマの胸からカイザの胸元に鎖が突然現れる。
だが、鎖はカイザの胸から滑り落ちた。
「え?絶対当たるのに、なんで?!」
リマの瞳に、初めて困惑の色が宿る。
カイザはゆっくりと立ち上がり、淡々と答えた。
「ウルトにはウルトで対処したまでだ。儂のウルト【回避の極意】、全てを受け流す絶対防御で、お主の鎖は儂と繋がらぬ」
リマは言葉を失う。
カイザの声音には揺るがぬ自信が滲み、重圧が空気を支配した。
「さて、あまり手荒なことはしたくない。アヤを解放してもらおうか」
その時だった。
リマの背後――空間が揺らめき、黒い靄のように歪む。
(……空間転移!?)
カイザは即座に気配を察知し、大剣を握り直す。
最大限の警戒を込めた視線の先から、ゆらりとローブ姿の人影が現れた。
「おや?娘を迎いに来たのですが、これはどういう状況ですかね?」
「パパ!」
リマが無防備に振り返り、明るい声が響く。
フードを被り、認識阻害の力で顔の部分は闇に包まれて見えないが、そのローブには見覚えがあり、そして聞き覚えのある声――
「貴様は……クレイドか?!」
「おやおや。お久しぶりですね。カイザさん」
次の瞬間、カイザの巨体が疾風のように間合いを詰めていた。
振り下ろされた大剣が空気を裂き――。
ドガァン!!
クレイドは杖で受け止める。凄まじい轟音と衝撃が、周囲に響き渡たった。
「ふふっ、いきなりですね」
「黙れ。貴様は――死ねッ!!」
カイザの怒声には、深い憎悪と長年の怨嗟が滲んでいた。




