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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
2章 カリオンの街
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60 アヤVSリマ

アヤとリマの戦いは、鬼ごっこのように始まった。


アヤが追えば、リマはするりと距離を保ち、時に鞭を振るう。


鋭い一撃は弾かれると分かっているのか、狙いは常に捕縛だ。


しなる鞭が、しゅるりと空気を裂いた。


アヤは《ノック》で空気を蹴り、宙を駆ける。

軌道を変え、リマの頭上から一気に拳を振り下ろした。


しかし少女は軽やかに後方へ跳ね、距離を取る。

その顔には、無邪気な笑み。


「あはっ☆ わかってきたよ!」


戦いながら、リマは楽しげに声を弾ませる。


「アヤ兄の力は『飛ばす力』だ! 空を飛んだり、私の力を飛ばしてあの人を解放したりしたんでしょ?」


「……!」


(鋭いな……)


「それにね、アヤ兄は近接戦闘しかできないんでしょ?」


「だから上を取って、地面に叩きつけようとしてる! ここは壁も障害物も少ないから、ただ殴って飛ばしたら距離が空いちゃうもんね?」


アヤは感心しながらも、内心舌を打った。


(バレバレだな)


「俺はリマの兄じゃない!」


アヤは力については何も答えず、兄であることだけは否定する。


「アヤはリマのお兄ちゃんだよぉ!」


少女はくるりと指先を振る。


「《チェインジェイル》!」


騎士たちを拘束した鎖が虚空から現れ、アヤを囲う。


(避けられねぇ!)


アヤは足を止めて即座に刀を抜き、刃に気力を込めて斬り払った。


――だが、それは目くらまし。


鎖の陰から鞭が蛇のようにのたうち、アヤの胴を絡め取らんと襲いかかる。


「っ、《ノック》!」


咄嗟に(スキル)を放ち、アヤは身体ごと上空へと跳び上がった。


足先で鞭が空を裂き、バシンッと乾いた音が響く。


(刀がなきゃ、あの鎖に捕まってたな)


「惜しい!」


リマは悔しさなど一切見せず、むしろ楽しげに笑った。


アヤはそのままリマの頭上へ移動する。


(! また同じ攻撃? 芸がないよ♪ アヤ兄)


リマは余裕の笑みを浮かべ、今度は躱すだけでなく鞭を返してアヤの腕を狙った。


だが、アヤはあえて同じ攻撃を見せた。拳を途中で止め、身を翻して鞭をかわす。

空中で軌道を変え、逆にリマへと迫った。


「《ノック》!」


掌底がリマの正面に突き刺さる。


「くっ……!」


衝撃に弾かれ、リマの身体は後方へ吹き飛んだ。


(痛い! でも……これで距離が空く!)


次の瞬間――。

ドンッ、と背中が硬いものに叩きつけられる。


「……壁?」


あり得ない。ここは拓けた中央広場、壁はないはず。


疑問が脳裏をよぎった瞬間、リマの瞳が見開かれた。


(これ……私が捕えた騎士の、鎖の牢……!?)


「終わりだ」


間髪入れず、アヤが迫る。

頭部めがけて掌底を突き出す。


「《ノック・ダウン》!」


意識を押し出す衝撃波が炸裂した。


「捕まえた☆」


「何?!」


リマは気絶せず、足元から鞭が伸ばして、アヤの足を絡め捕った。


「《娘のお願い(ラブリーキュート)》」


鞭を引いて、アヤの足首を傷つける。


「《ノック》!」


しかし、アヤも精神支配を押し出した。


「う~ん、やっぱり効かないか」


リマは距離を取って、残念そうに呟く。


「それはこっちのセリフだ。なんで気絶しねぇ」


「ふふっ♪教えな~い」


唇に人差し指を当て、秘密を守る仕草。


「あぁ、そうか」


(ちっ、どうする?)


アヤが次の手を考えていると、リマは無邪気な笑顔を浮かべた。


「それじゃあ、終わらせるね♪アヤ兄」


少女は胸に手を当てて祈るように目を閉じる。

その仕草は無垢で、神聖さを感じさせる。


「ウルト【二人の絆(ラブリーチェイン)】」


――ジャラリ。


乾いた金属音が、不気味に響き渡ると、いつの間にか、アヤとリマの胸を鎖を結んだ。


「……は?」


「これで、アヤは私のお兄ちゃんだね♪」


リマは満足げに笑い、鎖は虚空に溶けて消えた。


だが消えたのは形だけ――アヤの心はリマに囚われてしまった。

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