59 無邪気な少女
ノーラは剣を一閃、絡みつく魔法の鎖を断ち切った。
「あまり、騎士を舐めないで貰おうか」
「あれ?結構魔力込めたんだけどなぁ~」
少女の声音には驚きよりも楽しげな響きがあった。
「《ノック》」
アヤは溜めていた力を、操られた騎士へ叩き込む。
敵の精神支配する力を《ノック》で押し出した。
「すまない、助かった」
「上手くいって良かった」
アヤはこういう時のために対策はしていた。
うまくいくと信じていたが、成功を確かめて胸を撫で下ろす。
「あれ?そっちも解けちゃったの?へぇ~、君のスキル面白いね♪」
その無邪気な声に、アヤは視線を鋭くした。
「お前は、その力でエルフを誘拐したな。なんでだ?」
少女は唐突の質問に首を傾げて答える。
「え?だって簡単に大金稼げるんだよ」
悪びれもせず答える声に、アヤは眉をひそめる。
「誰がそんなことを言ったんだ……」
「パパだよお♪」
(どうやらこの子を利用した黒幕がいるみたいだな)
「そんな簡単に稼げないぞ。実際にエルフたちは俺たちが解放した」
「えー、そーなの?」
リマは目を丸くする。
「パパっていうのは誰だ」
「パパは、えっとすごい人!」
「……そうか、色々話を聞きたい。付いて来てくれ」
「それはダメだよぉ。ここでパパと待ち合わせしてるんだから」
「へぇー、それじゃあここで話をするか」
「お話より遊ぼうよ♪」
「いいだろう。その前に彼らを解放してほしい」
アヤは黒幕のパパが来るまでの時間潰し、そう思い了承し、騎士たちの解放を要求した。
「えー、邪魔されたら嫌だ」
「邪魔はさせない」
「んー……そうだ!君が勝ったら解放してあげるよ♪」
「言ったな。いいだろう。俺が勝ったら解放しろ」
敵が提示する条件にアヤは即答してしまう。
「うん」
「俺はアヤ、お前は?」
「アヤだね♪私はリマだよ!」
「それじゃあ、行くぞ!リマ!」
アヤとリマの、遊びと称した戦いが始まった。
解放された騎士が、ノーラの傍へと歩み寄る。
「どういたしますか?」
ノーラは小さく息を吐いた。
「アヤが条件を了承してしまった。もう鎖は斬れないでしょう」
(私があの子と話すべきでした)
ノーラはアヤに会話を任せてしまったことに後悔する。
「口約束とはいえ、契約魔法の一種ですからね。拘束は強まり、無理に破れば術者を強化してしまう」
「そういうことです。アヤに託すしかありません。幸い、お相手の力は非殺傷。洗脳と拘束です。危険度は低い。私たちは、彼女が言ったパパとやらに、備えますよ」
「はっ――承知しました」




