表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
2章 カリオンの街
59/92

56 条件

「何を騒いでいる?」


カイザと侯爵が話を終え、アヤたちの方へ歩み寄ってきた。侯爵が息子リオネルに問いかける。


「父上、アヤが帝国へ行くと言い出しまして……」


「帝国?何をしに」


「その、エルフたち奴隷を助けに」


その言葉に、カイザの鋭い視線がアヤへと向けられる。


「何?急にどうしたアヤ」


根拠を問われたアヤは、一瞬言葉に詰まり、答えに窮する。


「ん~……ムカつくから」


「ムカつく?一体何言ってるんだ」


カイザが呆れたように眉をひそめる。


「あ~……誘拐されたエルフたちは売られたら、どうなる?」


アヤが逆に質問をすると、カイザは慎重に言葉を選ぶ。


「……買った者次第だが、奴隷として扱われるだろうな」


「買われた者たちにとって、理不尽この上ないことだ。全くもって気に食わん」


アヤの拳が、自然とぎゅっと握り締められる。


「だから、助けに行く」


口調は軽いが、その奥にあるのはただの気まぐれではなかった。


どうしようもない理不尽なことが襲い、運命を呪うことしかできないあの無力感。


そこから助けられるのなら、助けてやりたい。アヤはそう思っていた。


「心意気は買うが、実力がなければただの自殺行為だ」


カイザの低い声が、場の空気を引き締める。


「これから実行犯を捕らえに行く」


「まだ仲間がいるのか?」


「いる。――そこでだ、アヤ」


カイザはわざと間を置き、真っ直ぐにアヤを射抜くように見た。


「お主の実力を示せ」


カイザのその発言に侯爵が口を挟む。


「カイザ殿、アヤ殿も連れて行く気か?」


「安心せい。何かあれば儂が出る」


「やらせてくれ」


アヤが一歩踏み出し、侯爵に懇願する。


「承服しかねる。そもそもこれはアメリオ王国の問題、冒険者であるアヤ殿の仕事ではない」


侯爵の言葉は建前に過ぎない。本音は、息子と同じ年頃の少年を危険にさらしたくなかった。


「侯爵、言いたいことはわかるが、アヤは魔族を撃退した功労者。ただの子供ではない」


侯爵は「正気か」と目で訴える。しかしカイザは力強く頷いた。侯爵は深く息を吐いた。


「……騎士と共に行動するように」


侯爵が苦しげに言い切る。カイザが認めている以上、侯爵が何を言っても無駄だと悟った。


「任せろ!」


アヤの口元に、自然と挑むような笑みが浮かぶ。


「決まりだな。騎士たちはどうする?」


カイザは侯爵に尋ねる。


「元々捕らえた者の護送とエルフたちの保護が目的だったのだ。人数が足りぬ」


侯爵が思案すると、一人のエルフが歩み寄る。


「ルグラン侯爵、私たちのことはお気になさらず、犯人確保に騎士たちをお使いください。クーちゃんもいますし」


そう言って霊鳥へと視線を送る。侯爵もつられてその姿を見やった。


「私たちも戦えないわけではありません。それよりも、どうか犯人確保には重々お気を付けください。……敵は鞭を使った精神支配系のスキルを持ちます」


「――貴重な情報に感謝する」


侯爵は短く頷き、重々しい声で命じた。


「騎士の半数はここに残り、残りはカイザ殿と共に犯人確保へ向かえ」


そして視線をカイザへと向ける。


「カイザ殿、私からアヤ殿に関して口出す権利はないかもしれぬが、くれぐれも頼みますぞ」


「問題ない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ