55 決意
カイザと侯爵が話をしている頃、アヤは命じられた通り、周囲の警戒に集中していた。
特に近くの森の中の気配を探る。
(やっぱりこれだけ人が集まると、森にいるモンスターたちの動く気配を感じるな)
遠ざかるもの、近づこうとしてはためらうもの、じっとこちらを窺うもの――森の中の気配が次々と伝わってくる。
「まさか霊鳥が見れるとは思いませんでしたね」
ふと隣に来たリオネルから声をかけられ、アヤが森を警戒しつつ、振り返って話す。
「霊鳥か、あいつらはフェニックスって言ってたぞ」
そう言ってアヤは、檻に入れられた賊たちを顎で示す。
リオネルは小さく笑い、首を横に振った。
「正確には違いますね。あれはフェニックスの子……次代を担う霊鳥なんです」
「次代を担う?どういうことだ?」
「本物の不死鳥フェニックスは、敵を焼き尽くし、味方と自然を癒す炎を操り、死んでも炎と共に蘇る。この世界にたった一羽しかいない、黄金の鳥です」
リオネルの声はどこか敬虔で、アヤは思わず耳を傾けた。
「対して霊鳥は、そのフェニックスが産み落とした子。霊鳥は羽の色で力が違うんです。赤は破壊、緑は癒し、そして青は蘇りの炎です」
「あぁ、だからあの緑の霊鳥は、敵に炎を使わなかったのか」
アヤはあの霊鳥がエルフを助けるため、馬車を攻撃していた時のことを思い出す。
「ええ。今いるフェニックスが死んだとき、霊鳥たちの中から、新たなフェニックスになるそうですよ」
「不死鳥なのに、死ぬのか?」
「僕も詳しくは知りませんが、不死といえども例外はあるみたいですね」
「そうか。それにしてもよく知っているな」
「勉強していますからね」
リオネルは肩を竦めた。
少し間をおいて、アヤが問いかける。
「なぁ、エルフの誘拐って、よくあることなのか?」
「ほとんどありません」リオネルはきっぱりと首を振る。
「そもそもアメリオ王国は、エルフやドワーフ、獣人と共存し、共に繁栄するために建国された国です。だから、エルフの誘拐なんて絶対に許されない」
「じゃあ、あいつらは……どこに連れて行くつもりだったんだ?」
「おそらく人間至上主義のヴァンダラ帝国へ。エルフはそこで高値で取引されているそうです」
アヤの表情が険しくなり、拳を強く握り締める。
「……奴隷か」
「帝国は否定していますけどね」リオネルは苦々しげに言った。
「エルフ返還を求めて外交した時も、『そんな奴隷は存在しない』と突っぱねられたと聞いています。――平気で嘘をつく相手です。まともな交渉なんて望めません。だから我が国は今も、帝国内で密かに捜索を続けているんです」
アヤは黙って聞いていたが、やがて低く呟いた。
「そうか、それなら俺も帝国に行く」
「……え?」
リオネルが目を見開く。
「まだいるんだろ?それを知った以上、見過ごせない」
「そんな、無茶だ!」
リオネルは思わず声を上げた。
「帝国は人間至上主義の牙城だよ?いくらアヤでも、帝国を相手にするのは無謀すぎる。本気で言ってるの?」
リオネルが困惑したように問いかけるが、アヤは揺るがなかった。
「あぁ、本気だ。それに、国を相手にするのも面白い」
アヤは挑戦的に笑った。




