51 王家の客人の証
街へと戻ったアヤは、正門にいる門番に声をかける。
「エルフを誘拐した奴らを捕縛した。王国の騎士団を出してくれ」
「あぁ?何言ってやがんだ?」
門番が片眉をつり上げ、疑わしげにアヤを見下ろす。
アヤは、カイザから預かったネックレスを見せる。
「これを見せれば話は通るって聞いたんだが……」
「なっ?!それを先に見せろよ!くそっ!着いて来い!」
門番の顔色が一変し、慌ただしく歩き出す。
「俺じゃ騎士団を出すことは出来ん!今からルグラン侯爵邸に向かう。子供のお前が話したら失礼だからな。お前はそのネックレスを見せるだけでいい。俺が話す」
荒っぽい口ぶりに、アヤは一瞬(……本当に任せて大丈夫か?)と眉をひそめたが、余計なことは言わず口を噤んで頷いた。
「ルグラン侯爵まで急ぎで頼む!馬車に乗れ!」
門番が御者に怒鳴るように声をかけ、二人は馬車へ乗り込む。
ガタン、と車輪が動き出すと、門番は振り返り、矢継ぎ早に質問してきた。
「で?その誘拐犯を捕まえたのはどこで、現状はどうなってる?」
「南の森の方の街道だ。今はカイザさんが尋問しているはずだ」
「カイザさん?!冒険者ギルドの元グランドマスターか?!」
門番の目が大きく見開かれる。
「そう、その人」
「……なら問題ないな。安心したぜ」
門番は胸を撫で下ろし、肩の力を抜いた。
話をしているうちにルグラン侯爵邸に到着した。
アヤたちは馬車を降りて、門番がアヤにネックレスを見せるよう促して事情を説明する。
「この者が王家の客人の証を持ち、南の森にて、エルフを誘拐した者を捕縛し、エルフたちを保護したとのこと、現場には冒険者ギルドの元グランドマスター、カイザ殿が対処しているとのことです。王国騎士団の出動要請が入りました」
別人のような丁寧な対応をする門番にアヤは目を丸くする。
(ジャンさんもそうだが、普段は荒っぽくても、こういう時にちゃんと対応できるのが普通なんか?)
(それにしても、このネックレス……王家の客人の証って言うのか。思ってた以上に効力がある物らしい)
「かしこまりました。待合室で少々お待ちください」
執事に案内され、豪奢な廊下を抜けて待合室へ通される。静かな部屋で腰を下ろし、数分もしないうちに、扉が軽やかに開いた。
入ってきたのは、アヤとほぼ同じ背丈の少年――リオネルだった。
「やっぱりアヤでしたか。また会えて嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべ、まるで旧友に再会したかのように駆け寄ってくる。
「なんでわかったんだ?」
アヤは小首を傾げて尋ねる。
「子供があのネックレスを持ってきたと聞いてね。しかもカイザさんが関わっているなら――弟子になった君だろうとすぐ分かったよ」
(……俺がカイザさんの弟子になったことまで知ってるのか。耳が早いというか、情報網が広いというか)
「そうか。それで、騎士団の出動はどうなってる?」
「今、父上が準備しているよ。その間、少し話そう」
リオネルは向かいの椅子に腰を下ろし、興味津々といった様子でアヤを見つめた。




