50 救出
「クーちゃん」
目を覚ました小柄なエルフは霊鳥の首元に手を伸ばし、ふわりと撫でた。温かな羽毛が指先に触れる。
「クルルルゥ」
霊鳥も嬉しそうに小さく鳴く。まるで甘えるように翼を震わせる。
エルフは上半身を起こし、きょろきょろと周囲を見回す。
視線が近くにいたエルフに止まり、問いかけた。
「えっと、ここは?」
「この人たちが助けてくださったのですよ」
エルフはにこりと微笑んで答える。
「助けてくださり、ありがとうございます」
カイザに向かってお礼を述べる。
「たまたま通りがかっただけです」
カイザがエルフたちの手錠を外しながら、応える。
アヤは二人のやり取りに口を挟まず、霊鳥へと向き直る。
「さっきは悪かったな。鳥」
「クルルルゥ!」
翼をバサッと広げて、応えた。どうやら謝罪を受け入れてくれたようだ。
「クーちゃん、何かされたの?」
そのやり取りを見ていた小柄なエルフが霊鳥に聞くと、カイザが口を開く。
「その霊鳥が人を襲っていたので、そやつが早とちりして霊鳥に攻撃したのですよ」
「カイザさんも魔法で拘束しただろ?」
アヤは眉をひそめ、口をとがらせて反論する。
「そうだな。霊鳥よ。すまんかった」
カイザが素直に謝ると、霊鳥は翼を広げて鳴いた。
「クルルルゥ!」
「ふふっ、クーちゃんは許してくれるみたいです」
エルフは胸を撫で下ろし、霊鳥の首元に顔を寄せる。
「ぐっ」
倒れていた男の一人が低くうめき声をあげ、もぞりと身じろぎした。
アヤは瞬時に足を踏み出し、その背中を強く踏みつけた。
「動くな」
「がはっ!」
苦悶の声とともに、男の身体から力が抜けた。
「くそっ……フェニックスなんかに邪魔されなきゃ……」
声はかすれていたが、その言葉には悔しさと憎しみが混じっていた。
(やっぱりフェニックスなのか。もっと燃えるような赤だと思ってたが、こいつは緑色だ)
アヤはちらりと霊鳥を見やり、その鮮やかな翡翠色の羽毛を目に留めた。
「さて、そ奴らに聞きたいことがある」
カイザはエルフたちの手錠が外し終わったのか、アヤが踏みつけた男に近づく。
「何聞くんだ?」
「ゴブリンのことだ」
思わぬ単語に、アヤは眉を上げる。
「ゴブリン?」
「そうだ。話は儂が聞いておく。アヤは街に戻って王国の騎士団を連れてきてくれ。これを見せれば話は通る」
カイザは首から外したネックレスを差し出した。
アヤはそれを受け取り、短くうなずく。
(俺も話を聞きたかったが、仕方ないか)
「……わかった」
アヤは了承して、街へ向けて走り出した。




