47 11グラム
「小僧、刀を使ったことがあるのか?」
グラムが怪訝そうに目を細め、顎の髭をいじりながら問いかける。
「え?初めてだけど」
アヤがあっけらかんと答えた。
「初めてでその見事な抜刀術を??!」
グラムはあり得ないとばかりに驚きの声をあげた。
(しまった!やりすぎたか?)
アヤは刀に興奮するあまり、漫画で見た技をやってしまった。
「あ~……この武器を見て、思いついた」
「刀を見て思いついた、だと??!」
グラムは驚いて空いた口が塞がらない。
「それじゃこの刀、買わせてもらうよ」
グラムは眉間の皺をじっと見せたまま、しばし考え込む。やがて、ゆっくりと息を吐いてうなずいた。
「……それほど扱えるのなら、いいだろう。その前に、その刀にはワシの魂の力が籠っておる」
「付与した効果は三つ。腐食耐性、破壊耐性、それに切れ味増加じゃ。それと手入れは絶対に怠るな」
「その刀に使ったヒヒイロカネという鉱物は、気力との相性が最高じゃが、魔法は微妙じゃ、ミスリルよりは劣る」
「へぇー、効果とか相性もあるのか」
アヤが感心するのを見て、グラムは鼻息荒く叱りつける。
「当たり前じゃ!普通はそういったことを考慮して買うかどうか決めるもんじゃ!」
そんなグラムの説教をアヤは受け流す。
「その効果の付与っていうのが、鍛冶師の腕の見せ所なのか?」
グラムは受け流されてムッとした表情のまま答える。
「……そういうことじゃ」
「へぇー、なるほどね。カイザさん、さっき言ってた効果はどうなの?」
アヤがカイザに振り返って聞いた。
「十分腕のいい鍛冶師だ。3つも付与できているし、3つともいい効果だからな」
「なるほど、そりゃよかった」
「ふん。当たり前じゃ」
グラムは鼻を鳴らし、胸を張る。
「それと、その刀の名は……11グラムじゃ!」
「……11グラム?」
「そうじゃ!ワシが打った十一本目の傑作じゃからな!」
(……だせぇ)
アヤは手に持っている刀を見て少し落胆した。
カイザが咳払いして、アヤを見やる。
「それで、本当に買うのか?」
「買う」
「はぁ、何を言っても無駄なようだな」
カイザは額に手を当て、苦笑を漏らす。
アヤがこくこくと頷いて、金貨三十枚入った袋をグラムに渡す。
「ふむ。確かに金貨三十枚じゃな。少し待っとれ」
グラムは金額を確かめると、店の方へと入る。
工房に引っ込み、ほどなくして戻ってくると、黒い帯を差し出した。
「ほれ、そのままじゃ腰に刀を差せぬじゃろ。これはおまけじゃ」
「お、ありがてぇ」
アヤはさっそく帯を腰に巻き、刀を差し込む。その瞬間、口元が自然に緩む。
「それじゃ、モンスター狩ってくる!」
ご機嫌な足取りで歩き出そうとするアヤ。
「待て!何を狩ればいいのかわかっとるのか?」
カイザが慌てて声をかける。
「適当に」
「はぁ、儂も付いて行く。お主案外いい加減だな」
呆れた声が、背中を追いかけた。




