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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
1章 プロローグ
5/71

5 冒険者登録②

「――これで試験は終了だ。ランク判定はもう少し待て。ロビーで待ってろ。」


「わかった。」


少年が訓練場の扉をくぐり、足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ジャンは深く息を吐いた。


思わず、最初の攻撃試験の光景が脳裏に蘇る。


「……は?」


あのときは本気で目を疑った。

壁が――“あの”試験壁が、一撃で粉々に砕け散ったのだ。


まるで幻覚でも見ていたような感覚だった。だが現実だった。

訓練場の床に散らばった赤い破片が、何よりの証拠だ。


だが、それ以上に不可解だったのは、色判定だ。


壁の魔法陣は、攻撃力に応じて色が変わる仕組みになっている。

最低は灰色、一般人並み。そこから青、緑、黄、橙、赤――そして、最上位は黒。


アヤの一撃で壁は砕けたのに、表示されたのは赤だった。

……Aランク評価。


常識で考えれば、あれはS……いや、それ以上の何かだ。

だが壁の色は、あくまで“表面に受けた衝撃”で判定している。

あいつの“ノック”とやらには、何か秘密がありそうだ。


「……本当に、あれが七歳の子供か?」


そうぼやいた俺は、試験結果を携えてギルド長室に向かう。


こんな逸材、見逃していいわけがない。

あいつは――只者じゃない。





アヤがロビーで待つこと数分。再び職員がやってきた。


「アヤくんお待たせ。マスターが話したいらしいから。ギルド長室に案内するね。それにしても珍しいこともあるんだね。本当は試験が終わったらギルドカードを発行してそれを渡すだけなのに。」


(本当によく喋るな。この人。)


ギルドの奥へと案内され、重厚な扉を開けると――


部屋の奥、整然と並べられた書棚の前に、ひとりの老人が立っていた。

白髪の髭をたくわえた男性で、その佇まいには威圧感こそないが、長年の経験を思わせる落ち着きがあった。


「マスター連れてきましたよー」


「君がアヤか?」


「うん。」


「ギルド長のガロスだ。よろしく頼む。」


「よろしくお願いします。」


「それじゃあ、私は戻りますね。あんまり子供をいじめちゃダメですよ?」


そう言い残して颯爽と去っていった。


「まったく、彼女は私をなんだと思ってるんだ。」


それに苦笑いしてると、ガロスは一枚の紙を手にしながら、椅子を勧めてくれた。


「さっそくだが、君の冒険者ランクは――Dランクと判定された。」


「……え? Dランク?」


一瞬、耳を疑う。アヤは、試験中のジャンの反応からすれば、もっと上でもおかしくなかいとおもっていたからだ。


ギルド長――ガロスは、アヤの困惑を見抜いたようにうなずく。


「疑問に感じるのも無理はない。理由を説明しよう。」


ガロスはテーブルの上に数枚の紙を広げながら、静かに語り出す。


「まず、さきほどの試験は“簡易試験”に過ぎん。測れるのはあくまで基礎体力だけだ。」


「確かに、君の結果だけを見れば――最低でもBランク相当の能力はある。」


ガロスはそこで言葉を切り、目を細めた。


「だが、君には冒険者としての経験がない。」


「……」


「依頼をこなすには、実戦だけでなく知識、判断力、状況把握力も必要だ。さらに、Cランク以上の依頼となると、護衛依頼が含まれてくる。その意味が分かるか?」


「……うーん、わからん。」


ガロスは苦笑しながら、しかし真剣な声で言った。


「護衛ともなれば、盗賊との交戦もある。対人戦だ。時には、人の命を奪わなければならない場面もある。」


その言葉に、アヤは小さく息をのんだ。


「君は、まだ七歳の子供だ。そんな君に、“人を殺すかもしれない”依頼を背負わせるわけにはいかん。」


重々しい口調だったが、そこには拒絶ではなく、保護と信頼が混ざっていた。


「だからこそ――まずはDランクとして、経験を積んでいってほしい。」


そう続けたガロスは、手元の書類に印を押し、こちらを見た。


「ここまでで、何か質問はあるか?」


「いや、特には思いつかないかな。」


そう答えると、ガロスは静かに頷いた。


「これが君のギルドカードだ。励みたまえ。」


アヤが、冒険者としての一歩を、踏み出した。

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