46 ヒヒイロカネの刀
「店の裏手に回って待ってな。あたしゃ旦那を呼んでくる」
おばさんがそう言って、店の奥へと引っ込んだ。
アヤとカイザは言われた通り、店から出て裏に回る。
店の裏側には、ちょっとした庭のような場所に木人形が置かれてある。
その先に、工房があり、先ほどのおばさんと一緒に、小柄の髭もじゃが出てきた。
「うちの旦那のドワーフのグラムだよ」
紹介されたグラムは鋭い視線でアヤをじろりと射抜く。
「この刀を買いたがっている子供ってのは、お前さんか」
アヤはわずかに眉をひそめながらも、真っ直ぐに答えた。
「あぁ、そうだ」
「この刀はヒノ国にしかない鉱物、ヒヒイロカネを使ってワシが魂を込めて打った物だ」
そう言って、グラムは腰から刀を引き抜く。
朱色の刀身が姿を見せ、陽光を受けて煌めいた。
まるで刃の中に炎が宿っているかのような輝きに、アヤの瞳も興奮気味に輝く。
「ワシは半端者にこの刀を売る気はない。ましてや子供に扱えるとは思えん」
もう一度アヤを鋭く睨みつける。しかしアヤはそんなのお構いなしに、無邪気にお願いする。
「試し斬りさせて!」
勢いよく手を伸ばし、刀を求めるその姿は、まるで新しい玩具を見つけた子供だ。
カイザはその様子を微笑ましく見る。
(ちゃんと子供らしいところもあるんだな)
グラムは面食らったように呆然としてしまうが、すぐに気を取り直す。
「ワシの話聞いてるのか?まぁ、いい。試し斬りだけはさせてやる」
刀を鞘にしまい、アヤに渡す。
アヤは両手で受け取り、そのずしりとした重みを感じて感動する。
(おぉ~。刀ってやっぱいいよなぁ~)
興奮を押し殺しながら、アヤはゆっくりと木人形へ歩み寄る。
「それにしてもドワーフがヒヒイロカネを使って刀を打つとはな」
「ふん。確かにドワーフはオリハルコンこそ最高の金属だと思っておるし、人間が造った刀なんぞよりワシらドワーフが造った剣の方がいいと思っている。……じゃが、全てを否定していたら、ドワーフはこれ以上発展しなくなってしまう」
「ほう。頑固者が多いドワーフにしては、柔軟な考えだ」
「おかげさまでワシは爪弾き者じゃ」
「はっはっはっ!だからここに居るのか」
カイザとグラムが話していると、アヤは静かに目を閉じ、息を整える。
(刀といえばやっぱアレだよな)
頭の中でしっかりとシミュレートした後、目を開ける。
「《ノック》居合斬り」
ノックを利用した抜刀と同時に移動し、一瞬で木人形を斬り捨てた。
「うん。いい感じだ」
アヤはご機嫌に言う。
それを見ていた二人は、アヤの見事な試し斬りに唖然とした。




