44 レオとメルのこれから
「レオ様、メル様、お部屋に戻る前に明日以降の予定についてお話があります」
模擬戦を終えて、ナズが口を開く。
会議室のような部屋に入り、レオとメルを座らせてから話し始めた。
「お二人が魔法学園に入学するまで、王宮で教育することになっています。特にレオ様は光の女神ルセリア様から加護を授かっているため、同じ加護を持つ者が師事することになりました」
「同じ加護……」
「はい。現在、この世界でルセリア様の加護を持つ者は四人。そのうち二人は冒険者と教会の聖騎士。そして残りの二人が、私とレオ様です」
(やっぱり)
レオは、ナズから似たような力を感じていたので、同じ加護を持っていることに驚きはなかった。
「ただし、未だに誰一人として聖剣召喚を成し遂げた者はいません」
「せいけん……しょうかん?」
メルが小さく首を傾げる。
「はい、かつての勇者様は聖剣を召喚し、それで魔王を討伐しました」
「聖剣じゃないと魔王を倒せないの?」
「そう言い伝えられていますが、アメリオ王国の初代王、大賢者アルケイン様はそれを良しとせずに他の方策を編み出しました」
「ふーん……じゃあ、聖剣はいらないってこと?」
メルはぽかんとした顔で尋ねる。
ナズは小さく笑い、首を横に振る。
「ないよりは、あった方が良いのです。聖剣は切り札ですから」
メルは不思議そうに話を聞いているの見て、レオが口を開く。
「要するに、僕は聖剣召喚を目指して鍛えればいいんですね?」
「はい。その通りです。明日から早速訓練いたします」
レオは目標が決まり、静かに拳を握り締めて、気合を入れる。
(クロノア王子に負けてしまったけど、次こそ勝つ!そしてルセリア様に認めてもらって、聖剣を召喚してみせる!)
ナズは視線をメルに移す。
「それと、メル様は、エルフ以上の魔力量をお持ちです。魔力の制御を身に付けていただくために、王宮に招待されました。しかし、既に無意識に魔法を行使しています。それも高度な幻術魔法を……」
メルは模擬戦でのことを思い出す。
「さっきの模擬戦で、わたしは魔法を使ってたんだよね……」
クロノア王子相手に簡単に勝ててしまった原因が、無意識に使った魔法であることがわかり、何とも言えない感情を抱く。
それは罪悪感なのか、それとも虚無感と言えばいいのか。
そんな感情を消化しきれないのか、メルは自分の手のひらをじっと見つめ、胸の奥がざわつくのを誤魔化すように、指先をもじもじと動かす。
「はい。使っていらっしゃいました」
「あの魔法を今度は自分の意志で使えるようになればいいってこと、だよね?」
メルは顔を上げ、確認するように尋ねる。
「その通りです」
ナズは頷き、この後のことを説明する。
「私はこれから、メル様の教育者の変更を進言をしますので、明日の予定については、早朝までお待ちください」
メルは難しい言い回しをなんとか嚙み砕く。
「えっと、朝まで待ってればいいのね」
「はい」
「わかりました」
メルは少しの不安と期待を抱き、明日から強くなるための訓練に思いを馳せた。
 




