43 セラフィーヌ
「お兄さま、頭を二度も打たれたのですから、今日はこれでお開きにして治療を受けましょう?」
セラフィーヌは、この場は早々に解散した方がよいと思い、強引にお開きにするために口を開く。
「む。そう、だな」
「えっと、大丈夫?」
模擬戦とはいえ、メルが二度もクロノアの頭に木剣を叩きこんでしまったのだ。
罪悪感から、心配せずにはいられなかった。
「大丈夫ですよメルさん。こうしてお兄さまは立っていますので、ただ少し休息は必要というだけですわ」
セラフィーヌがすかさずフォローする。早くお開きにしたいがために言ったが、先ほどの言い方ではメルを悪者みたいになってしまった。
配慮に欠けてしまったことに反省しつつ、メルの印象が悪くならないように、注意しながら言葉を選ぶ。
「う、うん」
セラフィーヌはにっこりと笑ってメルに答えていたが、その笑顔に圧のようなものを感じたメルは大人しく下がる。
「それでは皆さん。くれぐれも品位に欠けるようなことは口にしないよう、お願い致しますね」
セラフィーヌが訓練場にいた者たちに、笑顔でお願いをする。
騎士たちはその何とも言えぬ笑顔の圧に、王族の威厳を感じた。
あれでまだ六歳の少女だと言うのだから驚きである。
お茶会改め、模擬戦を終えて、自室に戻ったセラフィーヌは、一息つく間もなく、動き始める。
「お母さまに面会希望を出して!」
「かしこまりました」
「それと、あの場にいた人たちを全員洗い出しといて!」
自身の従者に次々と命令を下し、この後どう動くかを思案する。
「姫様、少し落ち着いてはいかが?お茶を入れますので、お座りになってお待ちください」
「……そうね」
椅子に座り、先ほどの出来事を思い出す。
訓練場にいた者たちには、王族の圧による口止めをしたが、それがどの程度の効力になるのか。
セラフィーヌ自身には判断ができない。
少しでも遅れれば、誰かの口から外へ漏れる。そうなれば面倒なことになる。
そして、これから問題となるであろう、兄であるクロノアのことを思う。
クロノアは天才と称されている。それは戦闘だけではなく、勉学に置いてもその天才さを発揮していた。
そんな兄が、まさか考えなしに求婚をするなどと、誰が想像するだろう。
何者かに操られていると思っても不思議ではない。
しかし、あの場にはあの、ナズ=ナ=レーヴ騎士団長がいたのだ。それはないだろう。
(それでも……一応確認した方がいいのかしら)
ナズ騎士団長への確認、専門家によるさりげない診察――
思いついたことを順に従者へと指示していく。
落ち着いて状況を整理したことで、次に取るべき手が、はっきりと見えてきた。
だがしかし、この時はこの思いつきが、数年後の魔法学園で、あらぬ誤解を生むことになるとは、思いもしなかった。




