41 天才②
「次は、わたしの番だね」
レオが起き上がるの見て、一安心したメルは、レオが使っていた木剣を拾う。
メルは緊張しているのかそれとも怖いのか、体が明らかに震えていた。
「メル、落ち着いて、深呼吸しよう」
レオがその様子を見て、助言する。
「う、うん」
「大丈夫だ。手加減はする」
クロノアはメルのその様子に、余裕そうに言う。
「両者、構えて」
「は、はい!」
審判役の騎士に促されて、メルが焦ったように構える。
「メル、瞑想の時を思い出して」
レオの助言にメルはレオの方向いて頷き、胸に手を当てて目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。
メルが落ち着きを取り戻し、ゆっくり目を開けると、雰囲気がガラリと変わる。
それまでの小さな少女の気配が、まるで別人のように消え失せ、空気が張り詰めた。
「へぇ」
メルの変貌に、クロノアはつまらない消化試合だと思っていたものが、面白い戦いになりそうで、にやりと笑う。
審判役の騎士も、周りで見物している人たちも、メルの瞑想の時に見せるその気配と、まるですべてを見透かすような眼差しに驚き、緊迫した空気が流れる。
「始め!」
クロノアは先ほどと違い、開始の合図と同時に飛び出さず、先手を譲るために、様子見をした。
すると突然、ゴン!っと鈍い音と共に、クロノアの頭に衝撃が打つ。
「いたっ!」
頭に木剣を振り降ろされて、クロノアの視線が下に向いたが、正面に戻すと、いつの間にかメルが目の前にいた。
突然に出来事に、クロノアすぐさま退いて、現状を確認する。
「あれ?……これ、わたしの勝ち?」
メル自身も、なぜこうなったのかわからずに首を傾げて、審判役の騎士に目線を向ける。
クロノアも、今メルに仕掛けるのは、さすがに卑怯すぎるので、審判役の騎士を見て、判断を待つ。
「えっと……」
審判役の騎士も何が起きたのか分からず、視線を彷徨わせて、今この場でもっとも強く、立場も高いナズ騎士団長を見遣る。
その視線を受けてナズ騎士団長が答える。
「今のはメルの勝利ですが、クロノア王子も納得できない様子、仕切り直すといいだろう」
どうやら、ナズ騎士団長には、メルが何をしたのかがわかっているようで、そう提案する。
「はっ!この試合はメル殿の勝利としますが、両者、再度勝負を致しますか?」
「俺はまだやれる!」
「わたしもいいよ」
「それでは両者、構え!」
クロノアは先ほど何されたかはわかっていないが、次は開始の合図と同時に仕掛けるつもりで構える。
「始め!」
クロノアが飛び出し、メルの眼前まで迫り、木剣を全力で横薙ぎ一閃。
メルに直撃し、倒れ伏す。
(しまった!やりすぎたか?)
メルのその姿を見て、クロノアが後悔していると、ゴンッ!
「いったっ!」
またもや、メルの木剣がクロノアの頭を打った。
「メル殿の勝利!」
たしかにメルは倒れていたはずなのに――いつの間にかメルが目の前に立っていて、木剣をクロノアの頭に振り下ろされていた。
一体何が起こっているのか。クロノアにはわからなかった。
そしてそれはメル本人も、レオに勝ったクロノア王子に、なぜこんな簡単に勝ててしまうのか。わかっていなかった。




