39 王子と王女
謁見を終えたレオとメルは、与えられた部屋でひと息つくと、王子と王女からのお茶会への誘いを受けた。
執事に案内され、二人は王宮の中庭へと向かう。
彩りの豊かな花々が咲き誇る中庭の一角には、涼やかな木陰のもとに、丸いテーブルと椅子が用意されている。
「第二王子クロノア=オ=アメリオ殿下と、第三王女セラフィーヌ=オ=アメリオ殿下がお待ちです。どうぞ、リラックスして」
執事の言葉に、レオとメルは思わず緊張した面持ちでうなずいた。
テーブルには、すでに二人の子どもが座っている。
「やあ。君たちに会えるのを楽しみにしていたよ。魔法学園の同級生として、これからよろしく」
尊大さを隠そうともしない態度で挨拶をする少年は、整った顔立ちに、銀髪に青と黄色の珍しいオッドアイを持つクロノア王子。
「初めまして。 ヴィクトリア=オー=アメリオの娘、セラフィーヌと申します。仲良くしてくださいませ」
ふんわりとした桃色の髪と翡翠の瞳が陽の光にきらめく少女は、椅子から立ち、優雅にカーテシーをしてみせた。
「レオです。よろしくお願いします」
レオは少し緊張しながらも、きちんと挨拶を返した。
「メル、と申します。……よろしく、お願いします」
メルはセラフィーヌの真似をして、たどたどしく挨拶をする。慣れない所作に小さく肩が揺れたが、その様子はかえって愛らしかった。
「どうぞ、お座りくださいませ」
セラフィーヌが優雅な所作で手を差し伸べ、ふたりに着席を促した。
「レオ、君が魔族を倒したんだろう?どうだった?」
クロノアが身を乗り出すようにして尋ねる。
「……とても強かったです。ルセリア様の加護がなければ、倒せなかったと思います」
レオは丁寧に言葉を選びながら答えた。
「なかなか謙虚だな、レオは」
クロノアは満足げにうなずき、椅子の背に体を預ける。
「もう、お兄さま。お話の前にまずはお茶菓子から、ですよ」
「……ああ、そうだったな」
セラフィーヌにたしなめられ、クロノアは小さく苦笑しながら作法に従って菓子に手を伸ばした。
「おふたりも、どうぞ召し上がってください」
セラフィーヌがレオとメルにも笑顔を向けて勧める。
「ありがとうございます」
レオは礼を述べ、お茶菓子に手を伸ばした。
その隣で、メルはセラフィーヌの所作をじっと見つめていた。
「……? メルさん、どうかなさいましたか?」
セラフィーヌが気づいて声をかけると、メルははっと我に返り、あわててお茶菓子に手を伸ばす。
「あ、えっと、いただきます……!」
メルはもじもじとしながらも、セラフィーヌの動きを真似て、丁寧にお茶菓子を口に運んだ。
その様子に、三人ともふと気づく。
――どうやらメルは、セラフィーヌのように美しい所作を身につけたいのだろう。
「セラフィーヌ、おまえが教えてやったらどうだ?」
突然、クロノアがさらりと言った。
「えっ? わたくしが……ですか?」
「ああ、そうだ」
セラフィーヌは思わず戸惑いの声を漏らす。
まだ自分も学んでいる最中で、教えるなんて早すぎる――そう思ったが、クロノアの意図にすぐ気づく。
それは、妹の学びと、メルとの関係づくりを兼ねた配慮だった。
セラフィーヌは一拍置いて、柔らかく微笑む。
「……そうですね。メルさん、わたくしは叔母さまから礼儀作法を教わっています。よければ、ご一緒に学びませんか?」
「えっ? ほんとに?!」
「はい」
「やった! ……あ、お願いしますっ!」
メルはぱあっと顔を輝かせた。




