38 王への謁見
その頃――
レオとメルを乗せた馬車が、王都に到着した。
「レオ!見て!すごいよ!」
「うん。人も建物も、凄い多いね」
王都の賑やかさに、メルが興奮して、レオは圧倒された。
王都には人間だけでなく、獣人やドワーフ、エルフの姿も少数ながら見受けられた。
やがて馬車は、王都の中心――白亜の城壁に囲まれた王宮へと辿り着いた。
馬車の扉が開くと、レオとメルは無言のまま、自然と見上げた。
「ここが王宮……」
「おっきいね」
「うん」
王宮の大きさと美しさに、二人はただ見上げていた。
そこへ、出迎えの執事が現れ、二人を王宮の中へと案内する。
二人はきょろきょろと王宮の内装を見回しつつ、それぞれ別々の部屋へと案内され、この後に国王と謁見が予定されていることを告げられた。
湯浴みを済ませて、王宮から与えられた礼装に袖を通し、謁見の間の控室に通される。
「どきどきするね」
「そうだね……ルセリア様にお祈りしよう」
メルがそわそわしているのを見て、レオは落ち着くために提案し、レオ自身も胸に手を当てて祈る。
メルはくすっと笑い答える。
「こんな時にお祈り?レオはいつも通りだね。お祈りじゃなくて瞑想するわ。アヤならきっと、こういう時間ももったいないと思って、そうするよね」
メルは、どんな時でも強くなるために何かをする、アヤのことを思い出し、瞑想を始める。
控室の静けさの中で、時は過ぎていく。
そしてついに、謁見の時がやってきた。
扉が重々しく開く音が、静寂の広間に響いた。
礼装に身を包んだレオとメルは、緊張した面持ちで足を踏み出す。
周囲の人々は、ざわめくこともなく、ただ静かに二人の一挙一動を見つめていた。
そんな中、玉座の横にいた者が声を張り上げる。
「ここにおわすは、アメリオ王国・第三十三代君主、ヴィクトリア=オー=アメリオ陛下であらせられる!」
玉座に鎮座するのは、夕焼けのような赤髪と、澄んだ橙の瞳を持つ若き王。
その姿には、美しさと凛とした威厳が宿っていた。静かなまなざしで、二人を見据えている。
「ようこそ、レオ、メル。遠路はるばるよく来てくれました」
その声には、温かく、優しい響きがあった。
「道中、魔族に襲撃され、撃退したと聞いています。……幼き身でよく戦いました。勇敢でしたね」
ヴィクトリア王の言葉には、形式ばった儀礼を超えた、本心からの称賛がこもっていた。
「褒美には、金銭を所望したと聞いたが、間違いはないか?」
女王がやや柔らかく尋ねると、レオがはっきりと答える。
「はい」
「そうか。では金貨百枚を贈呈する」
女王の合図とともに、執事が静かに進み出て、金貨の詰まった革袋を捧げ持って二人に差し出す。
袋の中から微かに金属が触れ合う音がして、メルは驚きに目を丸くした。
その横で、レオは深く頭を下げる。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
ヴィクトリアは微笑み、軽くうなずいた。
「あなたたちは、魔法学園に入学するまでの三年間、この王都で暮らすこととなります。ここは多くの人と知識が集まる場所。よく学び、見て、感じて、強くなりなさい」
こうしてヴィクトリア王との謁見は終了した。




