35 冒険者の少年少女たち
朝――。
安宿の一室で、アヤは目を覚ました。
いつものルーティーンの瞑想を行い、調子を整える。
続いて軽く体を動かし、昨日のことを思い出す。
(昨日は……依頼、受けられなかったな)
(というか、いつの間にかカイザさんの弟子になってたし……)
朝食を食べ終わったアヤは、冒険者ギルドへと向かった。
朝のギルドはすでに賑わいを見せている。
受付前には人だかり、依頼掲示板には冒険者たちが群がり、あちこちで小さな会話や笑い声が飛び交っている。
その中で、アヤの背後から声がかかった。
「おい、お前、新入りか?」
「ん?」
振り返ると、そこにはアヤよりも少し背が高く、精悍な顔立ちをした少年が立っていた。
年はアヤより一つ、二つ上といったところか。目つきに、どこか場慣れした色がある。
短く刈り上げた黒髪に、動きやすそうな軽装。腰には小さなナイフを下げている。
その後ろにも、年の近い少年少女たちが五、六人いた。
「見ない顔だな。冒険者登録したばっか?」
少年がぐいと一歩踏み出す。声には警戒というより、好奇心の色が強かった。
「まあ、そんなとこ」
アヤは短く返す。
「じゃあ、見習い組だな。おれはアレン。お前は?」
人懐っこく笑うアレンの言葉に、アヤはわずかに目を細めた。
「アヤだ」
そう名乗ると、アレンの目がぱっと輝いた。
「お。俺と同じで勇者アレイヤから名づけられたな?」
アレンは、誇らしげに胸を張っている。
「……あぁ、そうだ」
アヤはそのテンションの高さにやや戸惑いながらも、素直に頷いた。
実際、自分の名前の由来が勇者アレイヤであることは間違いない。
「同じ勇者繋がりの仲間だ。一緒に組んでやるよ!」
勝手に仲間意識を燃やすその様子に、アヤは少し肩をすくめた。
「いや、大丈夫だ」
「遠慮すんな。俺たち今日の朝は、運搬仕事ができるんだぞ?」
自信満々に言うアレンの顔に、アヤは眉をひそめる。
「運搬仕事?」
(喜ぶような仕事なのか?)
「あ~、そうか、初めてだからわかんないのか。運搬仕事は体鍛えれるし、色々と話も聞けるから当たりの仕事だ!」
「へぇー、外れ仕事は?」
「訓練場の準備だな!あれはつまんねえ。砂地を均したり、木人運んだり、地味で疲れるしな」
アレンは肩をすくめ、後ろの少年少女たちが「わかるー」と軽く笑った。
(なるほどね。俺くらいの年のやつは、最初はそういう仕事をするのか。俺も、ちゃんと覚えていかないとな)
「わかった。一緒にやるよ」
アヤがそう答えると、アレンはにぱっと明るく笑う。
「そうか!よし、みんな行くぞ!」
アレンが先導して、ギルドの裏手へと歩き出す。
「来たなチビッ子ども、それじゃ積み込むぞ。荷物はこれだ」
ギルド職員の男が紙を見ながら、顎で指示を出す。
アレンたちは慣れた様子で頷き、木箱を持ち上げて荷馬車へと運び始めた。
アヤもそれにならって、手近な袋を手に取って運ぶ。
「アヤくんじゃないですか~。今日はこっちですか?」
ひょいと顔を出したのは、エミリだった。
「エミリさんか。あぁ、そうだ」
アヤが荷物を抱えながら返すと、エミリはにっこり笑った。
「うふふ~。いいですね。お友達作ってください」
そう言ってエミリは颯爽と去っていく。
すると、それを聞いたアレンが声をあげる。
「アヤはエミリ姐さんと知り合いだったのか」
「……あぁ」
アヤが相槌を打つと、後ろの少年少女たちが「すげー」「マジか」などとざわめく。
(エミリ姐さん?)
アヤの頭に疑問符が浮かぶ。
その間にも、アレンが妙に誇らしげに胸を張った。
「姐さんはすげえぞ!今やこの街の首領だからな!」
「……は?」
唐突な言葉に、アヤの口から素っ頓狂な声が漏れた。




