33 ウルト
カイザは腕を組み、アヤをじっと見据えた。
「それとアヤ、お主は、魔術か魔法は使えるのか?」
突然の問いに、アヤは小さくうなずく。
「火の魔法が使えるようになった」
その答えに、カイザの眉がわずかに上がる。
「使えるようになった? ……まぁよい」
あっさりと流すと、カイザは話を続けた。
「モンスターには、魔法が効きやすく、スキルが効きにくいのがいる。もちろん、その逆もいる。相手に合わせて、魔法で攻撃するか、スキルで攻撃するかを見極める必要がある」
真剣な口調に、アヤも自然と背筋を伸ばして返す。
「なるほど」
カイザは一歩近づき、声を低めて語る。
「もっと細かく言えば、魂の力が効きづらくて、火の魔法も効きづらいモンスターもいる」
思わずアヤが聞き返す。
「そうなの?」
「あぁ。とはいえ、効きづらくてもユニークスキルなら、力押しで倒すことはできるが、そういったモンスターがいることは覚えておけ」
アヤは興味深そうに首を傾げた。
「ちなみに、どんなモンスター?」
カイザはしばし思案し、顎に手を添える。
「儂が思いつくのは――マグマスライムだな」
その名前に、アヤは思わず声を漏らした。
「へぇー、マグマスライムか……」
アヤは腕を組みながら小さくうなずく。聞いたことのない名前に、好奇心がくすぐられた。
「さて――ここからが本題だ」
カイザの声音が一段階低くなる。
「ソロでSランク冒険者になるには、ユニークスキルを身につけること。そして、もう一つ。魔法とスキルの合わせ技である【ウルト】を習得することだ」
「ウルト?」
アヤは眉を上げる。聞きなれない単語だった。
「あぁ。どんなモンスターにも通用する、究極の力。Sランクの称号に相応しい力だ」
「究極の力か。いいね!」
アヤは無邪気に笑って、拳を軽く握りしめた。
「お主、わかっているのか? 魔法とスキルを同時に発動して合わせるということが、如何に難しいか」
カイザの目が鋭くなる。アヤはその言葉を聞いて考える。
「……あれ? そんなことほんとにできんの?」
「気づいたか」
カイザはゆっくりとうなずく。
「そう。魔法は、魔力を変質させて使う。スキルは、魔力を使って、それ以外の力に干渉する。つまり――魔力を変質させながら、他の力も操らねばならん」
その説明に、アヤは思わず口を半開きにして固まる。
「ハッキリ言って、不可能に近い。だからこそのSランクだ」
「さっきのユニークスキル単体でも難しいのに、それに魔法を合わせるのか?」
アヤの声に、少しだけ困惑が混じる。
「おっと、勘違いするな」
カイザはすかさず訂正する。
「ユニークスキルじゃなく、スキルに魔法を合わせるんだ。お主でいうと、ノックに火の魔法を合わせることが出来ればよい」
「??ユニークスキル、ノヴァには、魔法を合わせられないのか?」
「当然の疑問だな。それも、不可能ではない。しかし――ユニークスキルに魔法を合わせた【ウルト】を扱えた人間は、歴史上ふたりしかいない」
その言葉に、アヤが身を乗り出す。
「誰?」
「大賢者アルケインと、勇者アレイヤだ」
「マジか」
アヤの目が見開かれる。自分自身の名前の元となった勇者アレイヤ。
その領域を知って、彼の心は一気に燃え上がった。
「そういうことだ。今は、それができる者はいない……」
カイザは少しだけ残念そうに目を伏せた。
「へえ~。それなら――俺がそのウルトを身に着けてやろうじゃねぇか!」
アヤの目が、挑戦的に輝く。
「フッ、その意気や良し」
カイザは思わず笑みを漏らすと、アヤをじろりと見下ろした。
「だがその前に。お主の装備を整える必要があるな。いつまでもそのボロボロな服では、かっこもつかん」
破れた服はあちこちほつれており、今にも裂けそうだった。
「ん~、でも、破れてるの、かっこいいだろ?」
アヤは胸を張りながら、破れた服を見せびらかす。
「かっこ、いい??」
カイザは一瞬、言葉を失った。




