30 弟子
「オホンッ!アヤ、お主を弟子にしてやろう」
「いや、いい」
ジャンはアヤのその返答に目を見開くほど驚いて、アヤを説得する。
「なっ!?おいアヤ!カイザさんから教えを受けられるのは、こんな機会でもない限りないぞ!」
「ん~~、というか、元グランドマスターって強いの?」
カイザは断られるとは思っていなかったが、実力を知らなかったのなら仕方ないと思い、落ち着いて答えた。
「知らなかったのか。冒険者ギルドのグランドマスターはSランク冒険者から選ばれてなる。つまり儂は元Sランク冒険者ということだ」
「へぇー、そうなんだ。それじゃあ、俺と戦ってよ」
アヤは挑戦的に笑う。カイザの弟子になるより、戦いたくてしょうがなかった。
「ほう?威勢のいい小僧だな。よかろう。相手してやろう」
カイザも乗り気だ。
「もぉ~、お爺ちゃんと子供の戦いなんて許可できる訳ないでしょ?」
エミリがそれに待ったをかける。
「む。」「…」
カイザが困り、アヤはジャンに視線を向ける。
ジャンが渋い顔をして、エミリを説得すべく口を開いた。
「……エミリ、カイザさんは元グランドマスターだ。そこらへんのお爺ちゃんとは違うし、アヤも普通の子供じゃない」
「元グランドマスターだからってなんですか!」
エミリは腰に手を当てて言い放つ。
「いくらすごい人だからって、引退したお爺ちゃんを戦わせるのは間違ってます~。」
「アヤくんが普通じゃないのも分かってますよ。それでも、将来有望な子供を戦わせて二人に何かあったらどうするつもりですか~?」
エミリの怒涛の反撃に、ジャンはたじたじになってしまう。
情けないジャンの姿を見て、アヤが代わりに話す。
「エミリさん、この戦いは俺が強くなるために、必要なことだ。まだ七歳だからっていう理由で、その機会を奪わないでくれ。冒険者は皆、自己責任で命を張ってるんだ」
エミリがアヤに振り向き、落ち着いて話し出す。
「アヤくんが強くなることには賛成ですよ。でもね、わざわざ戦わなくても強くなれるでしょ?それに、レオくんから聞いてますよ。アヤくんは無茶な特訓をするし、強い相手と戦いたがるって」
エミリが厳しい表情でアヤを見つめて、宣告する。
「だから、許可はできません!大人しくカイザお爺ちゃんの弟子になりなさい!」
レオの名前が出たことで、アヤはぐっと言葉に詰まる。
強い相手と戦いたいだけなのがバレて、不利を悟ったアヤは大人しくエミリに従った。
「…わかった」
「いい子ですね。お爺ちゃんもわかりましたか?アヤくん戦いたがっても、受けちゃダメですからね」
「…うむ。承知した」
アヤがわかってくれてエミリは満面の笑みになり、カイザにも釘を刺す。
エミリの完全勝利であった。




