28 元グランドマスター
魔族撃退の褒美の話を追記しました。8/3
「オリサさんの依頼が中止になったんなら、別の依頼受けないと、だな」
(遺跡調査、面白そうだったんだけどな)
アヤは椅子から立ち上がり、依頼掲示板のある階下へ向かおうとした。
「もう少し待てくれ。アヤに紹介したい人がもうすぐ来る」
ジャンの声に、アヤの足が止まった。
「ん?紹介したい人?」
「あぁ、冒険者ギルドの元グランドマスターの爺さんだ」
(元グランドマスター?ずいぶん大物だな)
アヤは再び椅子に腰を下ろしながら、眉をひそめた。
「それほどの人が俺に何の用だ?」
「…それは本人から聞いてくれ。あぁ、あと、オリサさんの依頼の補填金がアヤに入ってるぞ」
「補填? オリサさんから?」
「まさか。今回はやむを得ない理由での中止だ。そういう時は、冒険者ギルド《うち》が補填するのが普通だが……今回は学者連中からだな」
それを聞いてアヤは、少しだけ表情を和らげる。
「それはよかった……それにしても、補填金まで払って再調査からも外されるなんて、オリサさん、相当嫌われてるんじゃないか? 一体何したんだ」
アヤは呆れたように言ったが、オリサを心配した。
「ハハ、そうだな。俺も詳しくは知らねぇが、色々やらかしたらしいぞ」
ジャンは肩をすくめて笑った。
どこか苦笑にも近いその表情に、アヤはふと視線を落とす。
「……あとでオリサさんのとこ、行ってみるか」
「ん? どこにいるのか知ってるのか?」
「エミリさんから聞いた」
「そうか。」
「あと、昨日話した魔族を撃退したことで、国からの報酬は明後日には入る」
「あれか。わかった」
昨日、レオとメルが出て行った後、ジャンから伝えられた国から褒美が貰える話のことだ。
爵位かお金か、それとも他に望む物はないか聞かれたアヤは、お金を貰うことにした。
こういった国からの褒美の話は、強制的に爵位を与えないために、冒険者ギルドを通して決めれる。
魔法学園への推薦入学を希望することもできそうだったが、アヤは自分の力で入学するために希望はしなかった。
話しているうちに、扉が開き、エミリさんがご老人を伴って入ってきた。
「お爺ちゃん。ここですよ」
(お爺ちゃん?エミリさんは元グランドマスターの孫なのか。なるほどな)
アヤは妙に納得してしまう。
「…うむ。案内ご苦労。」
「このくらい大丈夫ですよ。その子がアヤくんで、そっちがジャンさん」
エミリは手を振って、ふたりを紹介する。
「娘さんや、、そのくらいはわかるぞ。」
「そうですか?それじゃ、お茶入れてきますね。ソファにどうぞ、歩くだけでもお疲れでしょう?」
エミリが軽やかに出ていくのを見送りながら、老人が小さくうめいた。
「あの娘は、儂をなんだと思ってるんだ……」
「……エミリには、あとで言っておきます」
ジャンは何とも言えない、貼り付けたような笑顔だった。
「うむ。それで、君がアヤか。儂はカイザ。冒険者ギルドの元グランドマスターの、しがない爺だ」
名乗ったのは、鋭い目つきをした筋骨隆々の老人だった。その姿には年齢を感じさせぬ威圧感がある――が、それ以上にアヤは、気になることがあった。
「エミリさんって……カイザさんの孫じゃないんですか?」
「む? 孫じゃないぞ」
(孫じゃないのに、元グランドマスターをあの扱い……最強か)




