27 魔族の目的
「暗い話はここまでにして。アヤも気になっているだろう、魔族のことだ」
ジャンは軽く手を叩いて、空気を切り替えた。
「今回の件は、冒険者ギルドと王国、それに教会も協力して調査している。ただ――魔族がどこから現れたのか、逃げた魔族の行方も、いまだ不明だ」
「それじゃ何もわかってねぇじゃん」
アヤが呆れたように返すと、ジャンは苦笑する。
「いや、まったくの手ぶらってわけじゃねぇ。わかったこともある。というより……謎が一つ、増えたんだ」
「謎?」
「そうだ。アヤ、七年前の“エルディア壊滅事件”は知ってるか? 火の柱から魔族が現れて、街を一夜で焼き尽くした、あの事件だ」
「知ってる。……俺は、そこで生まれて、生き残ったらしいからな」
静かに語るアヤの言葉に、ジャンの目が見開かれた。
「……そうだったのか。運がいいどころの話じゃねぇな。――いや、もしかして、お前……生まれつき炎に強い体質なんじゃねぇのか?」
「ん?…そうかもな」
思い返すのは、孤児院での訓練。火に手を突っ込んで耐える訓練をした時、すぐには火傷しなかった記憶がよみがえる。
「いや、きっとそうだ。あの魔族の炎に耐えて生き延びたのも、その体質のおかげかもな」
「死んでほしかったのか?」
アヤは意地悪そうに笑ってみせた。
「馬鹿言え。お前には生きてほしかったさ。ただ、なんで平気だったのか、ずっと不思議だったんだよ」
軽口を交わしたあと、ジャンは表情を引き締め、話を戻す。
「……話を戻そう。今回、俺たちの前に現れたバラガンって魔族は、自分で“七年前の魔族”だって名乗った。だが、本当に同一の魔族かどうか……そこが疑問視されている」
「そうなのか?」
「規模が違いすぎる。それに、教会の連中は“別の魔族”だと断定しているようだ」
「確信できる何かがあるのか?」
「さぁな。俺たち下っ端にはそういう情報は回ってこねぇよ」
ジャンは肩をすくめると、ゆっくりと椅子にもたれた。
「要するに、今回の魔族の目的は二つ。光の女神の加護を授かった子供を殺すこと。そして、七年前の魔族と誤認させることだ。だが、そのどちらも失敗に終わった。なぜ誤認させようとしたかは、謎だがな」
「……でも、あいつが本当にそれが目的だったとは思えない」
「ん? どういうことだ?」
アヤは真剣な目で続ける。
「名乗った後、誰かを逃がすつもりがあったかわからない。俺やジャンさんが生き延びたのも、あいつの計画通りって訳じゃない」
ジャンは黙り込む。ガロスからの命令で情報を持ち帰るように言われたが、見逃すつもりがあったかどうかは、今となってはわからない。アヤの話も一理ある。
「……そうかもしれんな。あいつが見逃しつもりがあったかは、不明だからな。よし、そのことは上に報告しておく」
「魔族に関する話は以上だ。あとは、オリサさんの依頼のことだな」
「! そうだ! あの魔族の目的が、遺跡にあるんじゃないか?!」
アヤが身を乗り出して言うと、ジャンは首を振る。
「遺跡が目的なら、こっそり行けば済む話だ。あそこは人の出入りも少ない。わざわざ町を襲撃する理由にはならん」
「……そうか」
冷静に反論されて、アヤは肩を落とす。
「まぁ、そう落ち込むな。遺跡が関係してる可能性もゼロじゃない。すでに再調査の対象にはなってる」
「既に……そうか」
(もう四日も経ったんだもんな。俺が思いつくようなことなんて、とっくに検討されてるか)
アヤは悔しさを隠すよう、顔をしかめて呟いた。
「そういうことで、アヤが受けたオリサさんの依頼は、中止になった」
「え? 再調査するなら、中止にする必要はないだろ。オリサさんだって……」
アヤの言葉に、ジャンが渋い顔をする。
「それがな。上の判断で、オリサさんは再調査から外されたらしい。理由は不明だ。……まったく、学者連中のやることは、わからん」
「外される……のか」
アヤはやるせなさを感じながら、目を伏せた。




