26 知る
「アヤは、元々魔法が使えたの?!」
リオネルが目を見開いて尋ねる。
「いや、元々は使えなかったよ」
アヤはあっさりと答える。
「……ということは、生まれつきじゃなくて、今使えるようになった? 魔法って、生まれ持った才能以外では、知識と努力の果てに使えるものだって……僕はそう教わったんだけど……。どうやって……?」
リオネルは混乱していた。自分の常識が崩れていくのを感じている。
「あぁ~、俺、魔族と戦っただろ? そいつが炎の魔法を使ってたんだ。それを思い出して、試したら……できた」
「……魔族? 魔族のことを思い出したら使えた? いや、魔族じゃなくて炎の魔法か。……だめだ。意味が分からない。僕も勉強不足だ。君がなぜ魔法を使えるようになったのか……今の僕にはさっぱりだ」
頭を抱えたリオネルは、素が出ているのか、アヤのことをあえて親しげに名前で呼んでいたのに、気づけば「君」と呼んでいた。
「ん~、魔力を変えたらできたぞ?」
「…………そう」
その説明では到底納得できないが、アヤもそれ以上のことは語れない。感覚で掴んだものを、どう言葉にすればいいか分からないのだ。
(知識って……なんだろうな)
アヤの中にも、小さな疑問が生まれていた。
「はぁ……なんか疲れました。そろそろ帰りますね」
リオネルは溜息をつき、肩を落とした。
「……そうだな」
そうして、リオネルは馬車で、アヤは徒歩で、それぞれ街へと戻っていった。
街へ戻ったアヤは、迷わず冒険者ギルドへと向かう。
カリオンのギルドは、エルナの町のそれよりも遥かに大きく、立派な建物だった。
扉を開けると、中はすでに冒険者たちで賑わっている。
朝の八の鐘が鳴ってから、もうずいぶん経っている。今はちょうど九の鐘が鳴る頃――つまり、午前八時五十分くらいだ。
この時間に二十人近い冒険者が出入りしているこのギルドは、エルナの十倍以上の規模といっていい。
受付には数人が列を作っており、アヤもその最後尾に並んだ。
すると、すぐに声をかけられる。
「アヤじゃねぇか。もう大丈夫なのか?」
振り返ると、ジャンの姿があった。
「ああ、問題ない」
「目を覚ましたばかりだというのに……たいしたもんだ。話がある、こっちへ来い」
ジャンに促され、アヤはギルドの二階、個室の一つに入った。
部屋に入るなり、ジャンは腕を組んで考え込む。
「そうだな……どこから話すべきか……」
黙ったジャンに、アヤが先に切り出す。
「ガロスさんは、大丈夫なのか? 教会では見かけなかったけど」
その言葉に、ジャンは顔を曇らせた。
「ああ……そうだったな。まだ話してなかった。……残念だけどな」
「……そう…なのか」
アヤは意外だった。
あの時、自分とガロスはほとんど同じ程度の攻撃を受けた。自分が生き延びたのなら、ガロスも当然――そう思っていた。
「魔族が撤退したあと、俺が救出に向かった。アヤ、お前には息があった。……だが、ガロスさんにはもう……」
ジャンは一度言葉を止め、静かに続けた。
「……あの人は、あの町に残してきた。……墓もそこにある。もし行く機会があったら……手を合わせてやってくれ」
「……近いうちに行くつもりだ。……孤児院のみんなも、そこに埋葬されたって聞いたから」
「……そうか」
ジャンは小さく頷いた。
静かな沈黙が、ふたりの間に落ちた。




