25 リオネルの提案
「アヤはこれから、どうするのですか?」
まるで親しい友人のように、リオネルが話しかけてくる。
「ん? 冒険者ギルドに行く」
魔族のこと、ガロスさんのこと、オリサさんの依頼――聞かなきゃいけないことは山ほどある。
「冒険者として活動するんですね。でも、それで……大丈夫なんですか?」
予想と違う返答に、リオネルは探るように言葉を重ねる。
「? 何がだ?」
さすがに遠回しすぎたか。伝わっていない。
(……聞き方を間違えましたね)
リオネルは心の中で反省し、今度は単刀直入に尋ねた。
「――魔法学園に、入学するんですよね?」
アヤは少しだけ目を細め、訝しげな顔になる。
「なんで知ってる?」
疑うような視線に、リオネルは怯まず冷静に返す。
「レオとメルが推薦で入学するって聞きました。アヤも……そのつもりなんじゃないかと」
さすが、将来腹黒貴族になりそうなだけのことはある――アヤは心の中でそう思った。
「なるほど、そういうことか」
リオネルはその返答にやや不満を覚える。肯定も否定もしないくせに、こちらの話を引き出すような口ぶり。
まるで、父上と話しているようだ。
「……アヤは、魔法学園の一般入試の内容をご存知ですか?」
「いや、まだ」
知っているのは、平民でも入れるらしいっていう噂くらいだ。
冒険者をやりながら、いずれ調べるつもりだった。
「やっぱり……。勉強、すごく大変なんですよ。僕も一般入学を目指してて、今、毎日勉強中です」
「ん? 侯爵のお坊ちゃまでも推薦じゃないのか?」
アヤの問いに、リオネルは小さく肩をすくめた。
「……ええ。魔法学園の学長はエルフですからね。身分は通用しません」
「なるほど」
リオネルは、そっと呼吸を整える。
そろそろ本題に入ってもいいだろう――リオネルは静かにそう判断した。
「……そういうことです。アヤは、勉強、どうするつもりなんですか? もしよければ、うちの家で面倒を見ますよ」
一息に言いきったその言葉のリオネルの狙いは、アヤをルグラン侯爵家の一員として取り込むことだ。
「ん~、勉強以外の方法じゃ、入れないのか?」
アヤの問いに、リオネルの口が一瞬止まる。伏せていた情報を、見事に突かれた。
「……ありますよ。魔法を一つでも使えれば、ですけど」
嘘をつけば、信頼が損なわれる。そう教わったリオネルは、正直に話す。
アヤが魔法を使えない――その可能性に賭けた。
「魔法か」
アヤが渋い顔で呟く。
その表情を見て、リオネルはほっと息をついた。やっぱり、使えないらしい。
「魔法が使えないなら、しっかり勉強して、魔術をいくつも扱えるようにならないと、入学はできませんよ」
アヤはそれに返さず、魔族バラガンのことを思い出していた。
(あいつの炎の魔法……あの魔力を、真似できれば)
魔力を動かし、手のひらに集中させる。そして――
ボッ。
小さな火が、アヤの手に灯る。
「お。できた」
「え?? ……えっ?!?!!」
リオネルは限界まで目を見開いて、文字通り絶句していた。




