22 新たな出会い
翌朝――。
アヤは教会の屋根の上に立ち、何かを探すように、遠くを眺めていた。
ふと、視界の先に、二台の馬車が近づいてくるのが見えた。まっすぐ教会の方へと向かってくる。
(お? あれ、レオとメルの馬車か?)
だが、それだけではなかった。
(ん……? ケモ耳!?)
馬車の周囲を固める護衛たち。その中に、ふさふさの耳を揺らす獣人の姿が見える。アヤの目が輝いた。
(獣人なんて珍しいなぁ。……モフりたい)
アメリオ王国には獣人、エルフ、ドワーフたちの自治領があるが、こうして人間の領で見かけるのは珍しい。
やがて、教会の前に馬車が到着し、レオとメルが降りてくるのが見える。
アヤは身軽に屋根の縁へと立ち、勢いよく飛び降りた。
「よう」
軽く手を上げて出迎える。
「アヤ?もう動けるの?」
レオが目を丸くして駆け寄ってくる。
「あぁ、この通り」
アヤは拳をぐっと握り、胸の前で見せつけるように掲げた。
「アヤ…元気になってよかった」
メルが笑顔を咲かせる。涙が出そうなくらいの、安心の笑みだった。
「あぁ、心配かけたな」
「相変わらず、アヤの回復力には驚きだね。そんなに回復早いのに四日も寝込んでたんだから、ホント無茶はやめてよ?」
レオは呆れたように言いつつも、その瞳はやはり心配そうだった。
「それなんだが、俺が四日も寝込んだのは、とっておきのやつで力のほとんどを使っちまったからだと思うんだよな」
「とっておき?」
メルが小首を傾げる。
「あぁ、そうだ。レオには見せる約束したやつ。レオ、今からどうだ?」
「う~ん、あんまり時間ないと思うんだけど」
レオはちらりと視線を横に送る。
そこには、護衛を務める騎士団の団長――
美しく、そして気高い雰囲気をまとう女性獣人がいた。長い銀髪、きりりとした瞳、そして特徴的な狐の耳。
「少しなら大丈夫ですよ。」
落ち着いた声で答える彼女の姿には、ただ立っているだけで人を圧倒するような気迫があった。
(お、近くで見ると、あの魔族より強そうだぞ?…戦ってみてぇ)
アヤはぞくぞくと背筋を震わせ、拳を握る。
「ありがとうございます、ナズ騎士団長」
メルが丁寧にお礼を述べる。
「アヤ、団長と戦う時間はないからね」
アヤの目つきを見て、レオがぴしゃりと釘を刺す。
「わ、わーってるよ……」
アヤはそっぽを向いて、むくれたように返す。
まるでいたずらを見つかった子どものようなその様子に、レオは呆れながら笑い、メルもくすくすと笑った。
久しぶりの、いつも通りのアヤ。
二人とも、それが何より嬉しかった。
「面白そうなものが見れそうですね」
声をかけてきたのは、もう一台の馬車から降りてきた少年だった。
身なりの整った青髪の少年。目元に品があり、言葉遣いにも隙がない。
「ん?」
アヤが視線を向けると、レオがその少年の方を向いて言った。
「あぁ、アヤのことを紹介してほしいって頼まれてね」
「君がレオとメルの友人のアヤだね。」
青髪の少年は微笑んで名乗った。
「僕はリオネル=イ=ルグラン。ルグラン侯爵家の者だよ。レオとメルから話は聞いている。……君に興味があってね。よろしく、アヤ」
(将来は腹黒い貴族だな)
「よろしくな」
食わせ者の雰囲気を感じ取りつつ、差し出された手を握り、笑顔で握手を交わす。
リオネルの銀髪を青髪に変更 8/4




