19 再会①
「ジャンさん。…あのあと、どうなった? 町や…孤児院のみんな…は?」
ジャンの表情がわずかに陰る。
「あーー……結果から言うと、あのバラガンとかいう魔族は――逃げた」
「……倒せて…いなかった……か」
「それと、町は壊滅状態。それから、孤児院のみんなだったな……」
一拍、言葉を止めたジャンの目が、どこか遠くを見つめる。
「……残念だが」
「そう……か……」
アヤは、ふと自分の拳を見つめた。
「……おれは……選択を、間違えちまったのか?」
「ん?」
「……あの時、魔族じゃなくて……孤児院に戻っていれば……みんなを助けられたかもしれない」
喉の奥が熱い。張り裂けそうな胸の奥で、後悔が静かに広がっていく。
ジャンは黙っていたが、やがて静かに言葉を返す。
「……確かに、その可能性はある。だけどな、アヤ――お前のおかげで、あの魔族は撤退したんだ」
「え……?」
「俺は見ていなかったが、アヤが奴に、深手を負わせたんだろ?お前がいなけりゃ、俺たちはもっと多くを失ってた」
少し俯いたジャンの声が、かすかに震えていた。
「逃がしちまったのは、俺のせいだ……おれが、とどめを刺せなかった」
「ジャンさん……」
「だから、アヤ。お前は何も気にするな。お前のおかげで、生き残った町の連中は大勢いる」
その言葉に、アヤはしばらく何も言えなかった。胸の奥に、まだ残る後悔が重たく沈んでいる。
けれど――その上から、静かに何かが積もる。
「……そうだな。俺が…もっと強くなって、魔族もガーゴイルも……全部まとめて倒せるくらい…最強になる。」
アヤは、少しだけ微笑んだ。
「……ん?…そう、だな。」
ジャンはツッコまなかった。思った返答とはズレたような感覚がするが、元気を取り戻したのなら、それでいい。
ドタドタ……慌ただしい足音が、アヤの病室に近づく。
――バンッ!
勢いよく扉が開いた。
「アヤ!!」
まさか――その声を、ここで聞くとは思わなかった。
「メル。」
俺は寝たまま、顔だけをそちらに向ける。
「……アヤっ……!! うわあああん!! アヤぁっ!! アヤぁあ!!」
メルは駆け寄るなり、俺の胸にしがみついた。
震える肩。涙でぐしゃぐしゃになった顔。
どれだけ不安だったか――その全てが、痛いほど伝わってくる。
「……泣くな。メル」
俺がそう言うと、メルは逆に、嗚咽を漏らす。
「やだよ……! アヤが……目、開けないんだもん……! ぜったい、もう……ダメかと……!」
「俺がそんな簡単に死ぬかよ……」
声はかすれていたけれど、それでも、いつもの調子を取り戻そうとする自分がいた。
メルはしゃくりあげながら、何度も何度も頷いていた。
「アヤ」
その後ろから、もうひとつの声。
「レオ」
「本当に目を覚ましてよかった。四日も目を覚まさないから、心配したよ」
「……そんなに経ってたのか」
「レオ! 今日の分の回復!」
メルが涙をぬぐって叫ぶ。
「うん。そうだね」
レオは手をかざし、俺の身体に柔らかな光が差し込んだ。
――温かい。
さっきまで鉛のように重たかった体が、少しずつ動かせるようになっていく。
「……もしかして、ずっと……回復魔法、かけてくれてたのか?」
「僕だけじゃないよ。ここの教会の人たちもみんな協力してくれた。アヤは……本当にひどい状態だったんだ。生きてるのが奇跡だって、みんな言ってた」
「……そう、だったのか……」
「うん。きっとルセリア様のお導きが、アヤにあったんだよ」
「だから、加護はもらってねぇって」
「ふふ……」
レオの相変わらずな女神愛に、つい肩の力が抜けた。




