閑話 戦いの後(レオ視点)①
「オ前ノ故郷のお友達……今頃、ドうナッテるダろうナァ……?」
魔族ガランの捨て台詞が、胸の奥に不穏な影を落とす。
エルナの町――無茶をしがちな、あの友の姿が浮かぶ。
「……なに……? 何をした!!」
問い詰める声に、返ってきたのはただの嘲笑だった。
「ア……ヒャ……ッハ……」
それきり、ガランは動かなくなる。
「くそっ……!」
嫌な予感が膨れ上がっていく。
もし、他の魔族がエルナを襲っていたら――アヤは絶対に最も強い敵、魔族に立ち向かうだろう。
「……ぐっ!」
脇腹に走る鋭い痛み。
加護で応急的に癒しているが、限界がある。傷は深く、出血もひどい。
それでも、レオは足を動かす。ふらふらと、町の方へ向かって。
「レオ殿! どこへ行くのですか! まずは傷の手当を!」
騎士が慌てて僕を制止する。
「町に……戻らなきゃ……!」
「このまま王都に行くより、まずはカリオンの街へ戻ります。そちらの方が近いし、治療の手もある。
それに、ルグラン侯なら、エルナの町の情報をすでに掴んでいるかもしれません。
応急処置をして、馬車に乗ってください。歩くより早い」
「……わかりました」
レオはおとなしく手当てを受けた。
包帯の感触がじんわりと熱を帯びる。
馬車の中には、メルがいるはずだ。けれど――妙に静かだ。
馬車に乗り込むと、彼女は座席にもたれるように伏していた。
「メル……? ――冷たい汗……でも、息はある」
体温は少し低いが、眠っているだけのようだ。
よく見ると、魔力の気配がほとんど感じられない。
(……魔力切れ、か)
(あれだけの魔力量を、いったい何に……)
バスクの最期と、メルのこの状態が、どうしても頭の中で繋がってしまう。
けれど――今は考えても仕方がない。
(それより、回復を優先しないと……)
気が緩んだ途端、まぶたが重くなる。
「……少しだけ、休もう……」
気づけばレオの意識も、ゆっくりと沈んでいった。
目を覚ましたとき、レオは教会の寝台に横たわっていた。
「……気がつきましたか、レオくん」
どこか聞き覚えのある声。見上げると、司教様がほほえんでいた。
傍らには包帯の交換に忙しそうなシスターたちも見える。
(ここは……カリオンの教会か)
光の女神ルセリア様のお祈りしにきた時に、司教様とは面識を得ていた。
「町は……!エルナの町は、今どうなっているかわかりますか?!」
僕が起き上がろうとすると、司教が制するように手を上げて、渋い顔して告げる。
「エルナの町に火の手があがったと聞きました。」
それを聞いたレオはガバッと起き上がる。脇腹に痛みが走る。
「行かなくちゃ…!」
「落ち着いてください。すでにルグラン侯爵の兵や冒険者が動いています。彼らを信じましょう。」
「…でも!」
「…レオくん。目を閉じて、心の中で祈ってみてください。
きっと、あの町で戦っている人々の中にも、女神の光に導かれている者がいるはずです」
「一人で全てを背負おうとしてはなりません。あなたの力は尊い。だからこそ、今は癒やされ、備えるべきなのです。
その手が再び誰かを救えるように――女神は、あなたの回復を願っておられます」
レオは司教様のその言葉を聞き、光の女神ルセリアへ必死で祈りを捧げた。
(ルセリア様…エルナの町の皆にお導きを…わが友にご加護を!…アヤは神の力はいらないって言ってましが、それでもどうか!彼に光を!もしくは敵に光の裁きを!ルセリア様のとっておきを!)
司教はレオの祈り始めたことに安堵していると、一人の急患がエルナの町から運ばれてきた。




