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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
1章 プロローグ
2/70

2 約束

8/5 追記しました。

歴史に名を残す英雄や勇者のほとんどは、神より加護を授かり、その力をもって世に貢献してきた。


だからこそ、七歳の「加護の儀」は、子供たちにとって人生の大きな節目であり、希望と不安が入り混じる特別な日なのだ。


「おおおぉぉ……」


加護の儀でレオが光の女神ルセリアの加護を授かった瞬間、神殿中がどよめいた。


黄金の光に包まれたレオは、恍惚とした表情で天を仰ぎ、ひとしずくの涙を流していた。

それは、まるで何かに心を奪われたかのようだった。


「よかったな、レオ」


アヤがそう声をかけると、レオは少し照れたように目を伏せる。


「ありがとう」


だが、隣のメルはどこか不機嫌そうな顔をしていた。

そして、ぽつりと呟く。


「……アヤは、悔しくないの?」


「ん? なんで?」


「だって、アヤは強くなるためにあんなに頑張ってたのに……」


アヤの頑張りを見ていたメルには、アヤに神の加護が授からなかったことを不服なようだ。


アヤは肩をすくめ、淡々と答える。


「ああ、俺は祈らなかった」


「え? なんで?」


「俺は自分の力で強くなりたいんだ。だから加護はいらない」


メルは小さく「あっ」と声を漏らすと、どこか安心したように笑った。


「そうだったんだ。なーんだ」


レオはメルの方を見て、さらっと爆弾を投下する。


「メルはアヤのこと好きだよね」


その言葉にメルはぴたりと動きを止め、顔を赤らめてうつむく。


「……うん」


その返答に、アヤの顔も熱くなった。


アヤは恥ずかしさを誤魔化すように、別の話題をレオに振る。


「……レオ、加護もらったとき泣いたろ」


「え? うん」


「なんで泣いたんだよ」


からかうように問いかけると、レオの目が急にキラキラと輝きはじめた。


「それは、僕の祈りがルセリア様に届いたのが嬉しくて。それで、頭の中にルセリア様のお姿が見えて……それが、美しすぎて……とても言葉では表現できない美しさに、感動してしまったんだ」


アヤの思惑通り、話題変更には成功したが、これはやっちまったなと困り顔になるアヤ。


またレオの女神愛が暴走を始めてしまった。


でも、メルはくすくすと楽しそうに笑っている。


「僕、ルセリア様に相応しい男になるよ。強くなるために特訓する。勉強もするし、魔法も身につける。毎日五回はお祈りする。発声練習もするし、光合成も頑張る!」


「……後半おかしい気がするけど、頑張れ」


「レオは女神様好きすぎだね」


たわいもない話をして加護の儀の後の魔力検査まで時間を潰した。


魔力は誰もが持つものだが、その量には大きな個人差がある。神の加護を受けずに活躍する者たちは、総じて、生まれながらにして膨大な魔力を備えている。


メルの番になり、水晶に手を置いた瞬間、装置がまばゆく輝き、周囲がざわめく。


「ば、バカな……」「これほどの魔力量、聞いたことがない……」

「測定器が壊れてるんじゃ……?」


再検査でも結果は同じ。


レオの加護の時とは違い、湧いたのは歓声ではなく困惑だった。


視線を浴び、メルは戸惑いながら小さく身をすくめた。


「すごいじゃないか、メル!」


アヤが励ますように、わざとらしく大きな声を出す。


「……アヤ」


まだ不安げなメルに、今度はレオが優しく微笑んだ。


「すごいよ、メル。ルセリア様も、きっと微笑んでくださる」


「……またルセリア様? レオってほんと好きだよね」


くすっと笑ったメルの顔は、少しだけ明るさを取り戻していた。


加護の儀と魔力検査も終わり、この日は特に話もなく、孤児院に戻った。


翌日、レオとメルが魔法学園に推薦され、入学までは王宮で教育を受けるという召喚状が届いた。


これにメルが動揺する。


「……アヤは?アヤも一緒だよね。」


困ったように笑って、アヤは首を横に振った。


「俺は呼ばれてないから、一緒には行けないよ」


メルの目に、涙がにじむ。


「嫌!……アヤも一緒がいい……!」


ぽろぽろと涙をこぼしながら、メルは顔を伏せた。


アヤは、しばし言葉を探した。


そして、まっすぐにメルを見て言う。


「一緒には行けないが――俺も王都に行くよ。そして、自分の力で魔法学園に入学する」


「……ほんと?」


「ああ。約束する」


メルは目を見開き、そっと頷いた。


「絶対だよ」


「絶対だ」


そっと重ねた手に、メルの泣き顔のままの笑顔が浮かんだ。


その横で、レオが微笑む。


「大丈夫。ルセリア様がアヤを導いてくれるさ」


「いや、俺には加護ないから」


アヤが呆れたように言い返し、メルがくすくす笑い、レオも優しくうなずいた。


三人の空気は、どこまでも穏やかだった。

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