18 目覚め
ピー――ピー――
「……ここは……」
カーテン越しの光が、殺風景な病室をぼんやりと照らしていた。
点滴の管に繋がれた腕。機械音のように一定の心電図のリズム。
斎藤直生は、痩せこけた体でただ天井を見上げていた。
「……また、今日もベッドの上か……」
手に持ったスマホの画面には、いつものバトル漫画。
強くて、たくましくて、自信に満ちた男たち。
――筋肉、笑顔、仲間、戦い、自由。
「……オレも、あんなふうになりたかったな」
それは、叶わないと知っている夢。
けれど、心の底から、ずっと願っていた。
運動は禁止。学校にもろくに通えず、
外に出ることすら――許されなかった。
「走り回ってみたかった……好きな服着て、街を歩いてみたかった……筋肉つけて、鏡見て喜んで……友達と遊んで……それで…好きな人と結婚したかった……」
かすれた声が、誰にも届かず虚空に消える。
「もっと……生きたかったんだよ……
神様……あんたなんて、大嫌いだ……」
その言葉を最後に、斎藤直生の意識は、静かに闇へと沈んだ――。
――チュン、チュン……。
「……ここは……」
鼻をかすめるのは、薬草と古木のような匂い。
白い天井にはひびが走り、壁の石材には幾つかの修復跡が見える。
木の梁と、窓から差す朝の光。
布で仕切られた簡素なベッドと、手織りの毛布。
どこか懐かしさすら感じる、あたたかく静かな空間。
「夢…か……」
ゴーーン…ゴーーン…
遠くのほうで、教会の鐘の音が風に乗って響いていた。
「アヤ……?」
かすかに、誰かの声がした。
「アヤくん!? アヤくん、目を覚ましたの!?」
ぱたぱた、と駆け寄る音。小さな声が震えていた。
アヤが瞼を開けると、見覚えのある顔――冒険者ギルドの受付をしていたエミリだ。
そのエミリが、涙目になってこちらを覗き込んでいた。
「……え、ミリさん……?」
「よかった……! 本当によかった……!」
エミリは泣きながら、部屋の扉を開けて叫ぶ。
「ジャンさん! オリサさん! アヤくんが目を覚ましたわ!!」
その叫びに応えるように、すぐさま足音が迫る。
扉が開き、ジャンが駆け込んできた。
「アヤッ!! おい……!」
「ジャン……さん……?」
ベッドの脇まで来ると、ジャンは肩の力を抜いて、思わず膝から崩れ落ちた。
「よかった……ほんとに……っ。お前、どんだけ無茶してんだよ……!」
笑いながら、でも目尻が濡れている。
続いて、落ち着いた足取りでオリサも姿を現す。
「相当無茶したらしいね。年寄りをあまり心配させるもんじゃないよ。」
「……オリサさん……」
アヤはようやく、現状を理解する。
自分は――あの魔族との死闘を経て、生き残ったのだ。
まだ体は重く、全身が鈍く痛み、喉は乾ききっているが、生きてる。
もっと鍛えて、強くなって、そして、レオとメルとの約束を果たす。
◆ここまで読んでいただきありがとうございました!
この物語は、第1章でいったん区切りとしています。
続章の執筆も考えていますが、反応を見て決めたいと思っています。
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