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トリニティ・ゼロ  作者: 人未満
1章 プロローグ
18/92

18 目覚め

ピー――ピー――


「……ここは……」


カーテン越しの光が、殺風景な病室をぼんやりと照らしていた。

点滴の管に繋がれた腕。機械音のように一定の心電図のリズム。

斎藤直生(さいとうなお)は、痩せこけた体でただ天井を見上げていた。


「……また、今日もベッドの上か……」


手に持ったスマホの画面には、いつものバトル漫画。

強くて、たくましくて、自信に満ちた男たち。

――筋肉、笑顔、仲間、戦い、自由。


「……オレも、あんなふうになりたかったな」


それは、叶わないと知っている夢。

けれど、心の底から、ずっと願っていた。


運動は禁止。学校にもろくに通えず、

外に出ることすら――許されなかった。


「走り回ってみたかった……好きな服着て、街を歩いてみたかった……筋肉つけて、鏡見て喜んで……友達と遊んで……それで…好きな人と結婚したかった……」


かすれた声が、誰にも届かず虚空に消える。


「もっと……生きたかったんだよ……

 神様……あんたなんて、大嫌いだ……」


その言葉を最後に、斎藤直生の意識は、静かに闇へと沈んだ――。



――チュン、チュン……。


「……ここは……」


鼻をかすめるのは、薬草と古木のような匂い。

白い天井にはひびが走り、壁の石材には幾つかの修復跡が見える。

木の梁と、窓から差す朝の光。

布で仕切られた簡素なベッドと、手織りの毛布。

どこか懐かしさすら感じる、あたたかく静かな空間。


「夢…か……」



ゴーーン…ゴーーン…


遠くのほうで、教会の鐘の音が風に乗って響いていた。


「アヤ……?」


かすかに、誰かの声がした。


「アヤくん!? アヤくん、目を覚ましたの!?」


ぱたぱた、と駆け寄る音。小さな声が震えていた。


アヤが瞼を開けると、見覚えのある顔――冒険者ギルドの受付をしていたエミリだ。

そのエミリが、涙目になってこちらを覗き込んでいた。


「……え、ミリさん……?」


「よかった……! 本当によかった……!」


エミリは泣きながら、部屋の扉を開けて叫ぶ。


「ジャンさん! オリサさん! アヤくんが目を覚ましたわ!!」


その叫びに応えるように、すぐさま足音が迫る。

扉が開き、ジャンが駆け込んできた。


「アヤッ!! おい……!」


「ジャン……さん……?」


ベッドの脇まで来ると、ジャンは肩の力を抜いて、思わず膝から崩れ落ちた。


「よかった……ほんとに……っ。お前、どんだけ無茶してんだよ……!」


笑いながら、でも目尻が濡れている。


続いて、落ち着いた足取りでオリサも姿を現す。


「相当無茶したらしいね。年寄りをあまり心配させるもんじゃないよ。」


「……オリサさん……」


アヤはようやく、現状を理解する。

自分は――あの魔族との死闘を経て、生き残ったのだ。


まだ体は重く、全身が鈍く痛み、喉は乾ききっているが、生きてる。

もっと鍛えて、強くなって、そして、レオとメルとの約束を果たす。

◆ここまで読んでいただきありがとうございました!

この物語は、第1章でいったん区切りとしています。

続章の執筆も考えていますが、反応を見て決めたいと思っています。


「続きが気になる」と思っていただけた方は、ぜひブクマや評価で教えてください。

感想なども、とても励みになります!

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